【感想・ネタバレ】服部卓四郎と昭和陸軍 大東亜戦争を敗北に至らしめたものは何かのレビュー

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Posted by ブクログ

処世術とはいつの時代も人を救ける。無論本人の持った生きていくうえで必要な能力である。世の中をうまく渡り歩くというのは難しいもので時代も環境も周囲の人間も全て自分の思い通りでは無いから、如何に状況に合わせて上手く立ち振る舞えるか、それも本人の実力の一つである事は間違いない。世のには上からも下からもウケが良く、困難な状況も上手くすり抜ける人がいる。そういう人を見ていると、内心腹立たしい事もあるが、自分には真似できないカリスマみたいなものを持っているのか、周囲と上手くやっていくために相応の努力や我慢もあるだろうと尊敬の念に駆られる事もある。
本書は太平洋戦争時における軍部の中枢、大本営の参謀の生涯を描いた内容だ。有名なところでは辻政信を思い浮かべるが、独特な個性を放つ辻とも上手くやっていける人間、服部卓四郎について描く。名前を聞けば凡その役割や関わった作戦を思い浮かべる方も多いかもしれないが、やはり辻や石原莞爾、瀬島龍三らに比べると戦後の活躍や書籍で取り扱われる数もそれ程多く無い様に感じる。とはいえ一貫して作戦本部で重要な位置を維持するエリート軍人として戦中を過ごし、戦後まで生き延びている。因みに前述の辻や瀬島は部下にあたる。そうした部下たちからも慕われ、軍を思いの儘に動かしてきた程の人間だから、エリート中のエリートとも言える。
本書は一貫して服部の周囲と対立しない処世術のうまさについて語っている。自分の意見主張を持ちながらも周囲に賛同し、争いも無く作戦課という陸軍の中でも花形の組織を、一つのチームに纏めていく。現代社会ならチームを率いるリーダーなら誰しも憧れる能力だ。しかもメンバーも陸大恩賜組の様な超エリート。ご承知の通り、全ての作戦が大成功とは行かず、寧ろガダルカナルに代表される様なその後の戦局を大きく暗転させるような失敗も多い。それでも終盤まで作戦立案の中心にいた事からも余程の信頼感ある人物であったと推測される。因みに頭でっかちの現場不向きかと思えば、戦地で率いる術も相当長けていたようなので、一般的に思われる現場知らずの実践不向きとも全く異なる。天才ゆえだろうか。
なお、本書後半は戦後GHQからの厚い信を得ていたというから、日本人独特の仲間意識からくる同調主義とも異なる。全く、処世術のなせる技なのか。
それはやはり天才の所業と言ったところであろう。周りの考えを見抜き、上手く考えや意見を合わせてチームや組織の結論を導き出すのは並大抵の努力では出来ない。結果的に敗戦から占領への道を辿りはしたものの、戦後も旧部下から慕われるなど、尊敬に値する人物であった事は確かである。
なお最終的には、戦後占領下の日本で、朝鮮戦争の煽り(米国が朝鮮へ派兵した留守を守る組織として)を受けて成立した現自衛隊にあたる警察予備隊の成立にも関わるなど、戦時、戦後を通じて国家にとってのメインストリートを歩き続けた人物であった。無責任という見方は容易にできるが、そうして生きて影響力を保ち続けた服部は、帝国陸軍の真の逸材であったと推測する。評価は別れる(それでも敗戦に繋がる作戦指揮は消せない)所だが、一つの知識として是非記憶しておきたい。
一つ、タイトルにある敗北に至らしめた理由には、服部の様な存在が、上手く同調主義や事なかれ主義的な日本にはまり、島国の根底にある仲間意識の中に答えを見つけられるのではないだろうか。

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2023年05月18日

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