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Posted by ブクログ
狭い世界でのことかもしれないが、この数年、中公文庫の文芸系文庫の編集が面白いと言われている。
小説+関連する作家論とか、特定の括りで一作家の作品を纏めるとか、ちょっと違った切り口のアンソロジーを出すとか。
志賀直哉と言えば、"小説の神様"。とは言え、実際今どのくらい読まれているのだろうか。自分にしても、主要な短編を高校時代に、『暗夜行路』を大学時代に読んで、ほぼそれっきり。
今回、生きものと子どもの小品集として、戦後間もなくに刊行された『日曜日』と『蜻蛉』に収められた短編を一冊にまとめて収録した。
「清兵衛とひょうたん」、「小僧の神様」、「城の崎にて」といった有名なものも収められているが、初めて読むものも多かった。
1ページ目から順に読んでいったのだが、志賀直哉の文章はこんなに読みやすかったかな、と思い思いしながら、読み進めていく。印象に残ったのは、飼い犬がいなくなり心配しながら探す一所懸命さを描いた「クマ」や「犬」、母の死を淡々と描き、悲しむでもなく新しい母を迎える「母の死と新しい母」。
ところが、『蜻蛉』になると、生きもの、動物に関する作品たちなのだが、『日曜日』収録作の表現とは雰囲気がだいぶ違って感じられる。家に入り込んだ家守を二度と入らないように、杉箸を使って殺してしまう「家守」。偶然投げた石が当たっていもりが死んでしまう「城の崎にて」、鶏を襲ったため殺されることになった野良猫のことを思う「濠端の住まい」など。
今は、ペットを除けば、住んでいる周辺に生きものを見ることは少なくなったため、生き物を殺したり、殺すところを見たりすることはほとんどない。しかし、これらの作品が書かれた当時は、生きものは生活にもっと近く、その生も死も直接的だったのだろう。
それにしても、志賀直哉家では、実にさまざまな生き物を飼っていたのだなあ。