【感想・ネタバレ】ある男のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

めちゃくちゃ面白かった!
文体もストーリーも何もかも好きだった。ファンになりました。

自分を自分たらしめているものはなにか。
戸籍の重みを感じた。
愛することと、そのひとの過去を知ることは、必要十分条件なのか?
それは偽である、とこの小説を読んで感じた。
愛は今とこれから先で紡いで行ける。そんな希望も見出せた小説。城戸にとっても、夫婦関係のやり直しに希望をもたらした事案であったにちがいない。

ストーリー展開も、最後までハラハラしたし、概説のおかげで登場人物の相関も理解しやすかった。

0
2024年05月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

名前は生を受けて初めに授かるもの。でもそれは極論ただのラベルにすぎない。“人”を”その人“たらしめるものとは何か、を考えさせる作品だった。

ーーー
この作品は、ある男を中心に描かれる。彼は林業に携わりながら素朴な絵を描く男で、文房具店の娘里枝と結婚し、花という娘と連れ子の悠人と4人で暮らす、よくいる幸せな家庭を築いた男だった。
だが事故で亡くなったことをきっかけに、名乗っていた「谷口大祐」が本当の名前ではなかったことが発覚する。
里枝から依頼を受けた弁護士城戸が、「谷口大祐」を名乗る”X“の正体を辿っていく。

序盤ではミステリー要素にかなり引き込まれ、この男は誰なのか、ということが知りたくなり読み進めていた。
しかし読み進めていくうちに、これはただのミステリーではないと感じた。

Xの正体という点では、何度か戸籍を交換することで「谷口大祐」となった殺人犯の息子「原誠」であったが、そこは物語の本質ではないように思う。
Xが里枝と会って過ごした時間は間違いなく(何が本来かはわからないが)本来の彼だった。だが彼が原誠だったら里枝と出会っていたのか、彼の語る過去が谷口のものでなく誠のものだったらどうなっていたのか。彼は原誠、谷口大祐、簡単に割り切れる存在ではなく、原誠と谷口大祐、二人の人間が混じり合った人物だったのだと思う。

自分と違う人生、自分以外の人間が混じり合った人生を生きるのはどういう感覚なのだろうか。
違う人生を生きてみたい、というのはたまに思うが、どこか非現実的で、ありえないと思っている。でもそれが叶った時、そしてそれを心から望んでいた時、自分はどういう気持ちになるのだろうか。

私自身、”名前”について考えたことがなかった。親から与えられたもので、それに対して違和感や疑問を持つことなく、当然のものとして過ごしてきた。
だが、名前というものは唯一のものである一方で親や子など他者との繋がりを持ち、そして戸籍がなくなってしまえば案外脆いものなのだと思った。


本書の冒頭では、小説家である”私”が出てくる。
彼は、「他の登場人物(おそらくXなど)を主人公にしなかったことを疑問に思うだろうが、城戸さんにこそ見るべきものを感じた」と言っている。
おそらくは「谷口大祐」を名乗る”X“と、在日3世の弁護士城戸がどこか自身の存在に不安を持つという共通点を持ち、のめり込んでいく城戸にこそ魅力を感じたということなのだろう。
アイデンティティの不安定さに共通点を見出す著者がすごいと思った。
ーーー
内容として素晴らしいのはもちろん、本書の構成も練られたものだった。
最後にまた序章を読み直すことで、”私”から見た城戸を改めて見ることができる。
それにより、今まで読んできた”城戸章良”という人間は実在する人物だったのか、を疑わせる構成となっている点に、さらに感動。

0
2024年03月07日

ネタバレ 購入済み

とてもいい作品

最近読んだ中で1番良い作品で、1番表現しにくい作品。
最後に幸せがそこにあって、本当のことを言うべきなのかすら悩んだのではないか、その事で3回目の自殺だったのではないか...。
想像できる限りの当事者の心情を慮ったが、正解はわからない。
生きるとは誰しも難しいのだと、そこに立場や出自は関係なく皆悩みながらそれぞれ懸命に生きているのだと思った。

0
2022年09月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

城戸さんが、本物の谷口さんと会った時の谷口さんの態度や発言ムカついた。
氏名や過去じゃなく人柄で、「谷口君」は愛されたんだな。人生の最後の数年幸せで良かった。

0
2024年05月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み終わった後、少し寂しさもありながらお腹の底からジーンと静かに伝わる温かさを感じた。人と関係を結ぶのに私はその人のどの部分を見ているのか考えさせられた。城戸の中で原誠が善人であって欲しいとする気持ちはとても理解出来た。最後の方でミスズの言葉からイメージしていた谷口大輔と城戸が実際にあった谷口大輔の印象が全然違うことに驚いた。谷口大輔という人間は1人だけど谷口大輔と関わる人の数だけ、その人を通した沢山の谷口大輔がいて、その人らしさなんてあって無いようなもので、関わる人がどう見出すかに大きく影響されるものなのだなと思った。とすれば自分の良いところを見出してくれる人と一緒にいるということが幸福な人生を送る上でとても大切で、それを自分の過去が邪魔をするなら私も名前を変えるだろうな。というかこれからの時代、もっと自分のアイデンティティは自分で選べるというふうになっていくんだろうなと思った。名前って過去と結びつく強固なものなんだなと思った。

0
2024年03月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

愛に過去はどう関係するのか。

この命題について、
はじめから最後まで一貫したストーリー。

この小説で気になるのは序盤の存在。
これは誰が書いたことになっているのか。
城戸さんと同じ1975年生まれ、小説家とあるから、著者の平野さんが城戸さんとあったというていで、この小説が始まっているのかな。

そのあたりからもう面白くて、引き込まれた。

城戸さんがある男のことをのめり込んで調べていくけれど、ある男のことを考えながら、実は自分のことを考えざるをえなくなっていく。自分の出生ルーツもある種あまり人に知られたくない過去であり、でも「気にしてないって感じが気にしているってことだ」みたいなことを人に言われてめちゃくちゃ腹たったりとか、ほとんど自分にも向き合う旅になってしまったのでは。

あとこの作者は、嫌な感じのする人物描写を、ほんとに嫌な感じに描くのがうまいと思った。

恭一郎の田舎のイタい経営者風情とか、ブローカーの会うだけで気が滅入りそうなゲスさとか、何より再会したダイスケの荒みっぷりがなんか読んでいて辛かった。美涼がまだかわいいですか?とかヤバいなとか、なんか生きていて欲しいってあれほど願っていたその人の痛みっぷりが…なんとも。

人は過去を取り替えても生きていけるけど、そこから良い現在を積み重ねていかなければ、結局幸せな人間にはなり得ないというか。健全さを少しずつ失ってしまうのかな。

文章中の言葉も独特というか…知らない言葉もあり、なんどか辞書を引いて調べた。勉強になりました。




0
2024年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

宮部みゆきの火車を思い出した
そちらでも言及されていたと思うのだが戸籍とは一体なんなんだろうか
こんなに簡単に交換などができてしまうものになんの意味があるのだろうか

戸籍交換をした後に必要ないはずなのに、元の戸籍の持ち主の歴史を背負って振る舞うのは面白かった
他人になることに快感を覚える描写があったと思うがその感覚なのか
もしくは単純に語るのが楽なのだからなのか?

1
2024年03月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

犯罪者の息子は何もしてないけど、被害者側からしたら、犯罪者の息子もきっと許せないだろうな。もし私がそうならば、できれば幸せになって欲しくないし、辛くて惨めに底辺で生きていてほしい。でも、犯罪者の息子からしたら?自分は何もしてないのに、何故日陰で生きねばならないのか。ふついに生きていたいだけなのに。
戸籍を交換したあと、Xは幸せだったのかな。そうだといいな。里枝はXの本当の過去を知って、Xへの愛は変化したのかな。私もそうやって人を愛し続けることができればいいな。
とても辛い話だけど、とても愛に溢れた話だった。

0
2024年03月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

夫が亡くなり、夫のものだと信じてた名前、生い立ち、過去全てが別人のものと分かる。自分は誰を愛していたのか。奥さんの立場になるともう何も信じられなくなるだろうけど、残された血の繋がりのない子供の心情まで描かれていて胸が苦しいと同時にその描写が素晴らしいと思いました。
『わかったってところから、また愛し直すんじゃないですか?一回、愛したら終わりじゃなくて、長い時間の間に、何度も愛し直すでしょう?色んなことが起きるから。』
解決はしないけど温かな気持ちになれたフレーズでした。

0
2024年03月03日

匿名

ネタバレ

良かったです!

人が人を愛することの多面性を改めて感じさせられる作品でした!

人が人を愛するとき、その根拠を過去の体験に求めることはあり得ます。
一方で、過去の自分に起きた出来事をどう感じとるかは人によって異なるのであり、今回であれば、〈入れ代わった人が語った〉谷口大介の過去にりえが惹かれたのではないかとも思います。

私個人の意見としては、入れ代わった人がありのままの自分の過去を理恵に話したとしても、世間体を抜きにして考えれば、りえに愛されていたのではないかと思います。

城戸も出自に対するコンプレックスを抱いているという意味では大介と僅かに共通点があり、それが城戸の大介に対する印象を美化させていたのではないかという妄想が膨らみました。

夫婦関係についても繊細な描写で、没入してあっという間に読み進めてしまいました。

#切ない #深い

0
2023年08月01日

ネタバレ 購入済み

アイデンティティを揺がす一作

「ある男」というタイトルは不確かな人物を指す筈だ。そんな曖昧で内容がなかなか見えてこないタイトルが故に「ある男」とはどんな奴だ?と気になり、さらには映画化も決まっているということで手にとってみた。
「ある男」というのは奴のことを差しているのだと思うが、正直なところ、その「ある男」は特別何か光って見えるとかそんなものではなく、日常のどこかに溶け込んでいるような平凡な人物であったなぁというのが私の受けた印象。
ではなぜ奴を「ある男」と呼んでいるかというと、名前を偽って生きてきていたからだ。
奴がしていたように、もし私の妻が名前を偽って、さらには戸籍を他人と交換して生きてきたのだとしたら私はどう思うのか考えさせられた。
そのまま好きでいられるのか?そんな嘘を許せるのか?など。たぶん無理。
他にも、実際戸籍の交換は不可能であると信じたいが、可能であったとして、この戸籍の交換というのは何かメリットはあるのだろうかと読んでいて思った。
戸籍を変えたいと思う理由でまず考えつくのは、傷のついた経歴を無かったことにしたいからだと思う。それって傷のついた経歴同士を交換することになるから、必ずどちらか一方はより傷の深い経歴を持つことになるのでは?



0
2022年07月04日

ネタバレ 購入済み

試し読みでは面白かったのに

映画は見ていないのですが、表紙と映画のシーンに興味があり、試し読みで面白いと思い購入しました。ある男の正体を知りたいと思い読み進めました。結末は戸籍の交換の話ですが、弁護士が在日韓国人の為差別を受けてきた事などのエピソードが何度も何度も出てきて少し鼻に付きましたそこがなければ、もっと面白かったのにと思いました。

#切ない #タメになる

0
2023年02月12日

「小説」ランキング