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Posted by ブクログ
広大な銀河帝国を舞台としたSFでありながら、その内容は貴族の陰謀や政治的な駆け引きを主題とした宮廷劇である。また文化や言語、自己の境界などのテーマに関しては哲学的な領域にまで踏み込み非常に読み応えがあった。
まずこのタイトルの素晴らしさよ。なぜSFのタイトルはどれもこう美しいのか。読み進むにつれそのタイトルがもつ物語上の意味が明らかになり、読後に本を閉じたその瞬間、表紙に書かれた表題を見て改めて感嘆の息が漏れる。タイトルとはこうでなくてはならない。
物語は銀河帝国〈テイクスカラアン〉の壮麗な首都に、辺境で併合の危機に晒された〈ルスエル・ステーション〉からやってきた外交官である主人公マヒートが降り立つ所から始まる。
本書の魅力のうち大きな部分を占めるのが、このテイクスカラアンを中心とした世界観の色鮮やかな描写であろう。洗練された貴族文化をもち、政治にまで詩作能力が要求される詩人の帝国。それでいて生贄の伝統があり、あらゆる方向に侵略の手をのばす野蛮性をも持ち合わせた危険な帝国。
モデルとなったのはビザンツとアステカらしいが、作者自身がビザンツ帝国の博士号を持っているとのことでその描き方の説得力にも納得した。
固有名詞が多く、初めはとっかかりにくいというのは事実である。しかし、読み進めているうちに、いつの間にかそれらの用語にも慣れている自分を発見するはずだ。それはまさしく異文化に放り込まれてから徐々に親しんでいく過程の追体験に他ならず、これらの独特な用語が小説に旨味を与えていることは間違いない。
帝国に住む人々の描写も良い。彼らの価値観や美学が、その言動や所作などから伺えるという構造が上手いのだ。中でも主人公の文化案内役であるスリー・シーグラスがあまりにも魅力的だった。好きになってしまう。
賢くて好奇心旺盛、負けん気が強くユーモアのある皮肉屋。エイリアンにも興味を示すなど進歩的な知性と旺盛な好奇心を持つ彼女だが、そんな彼女すらマヒートのことを平然と「野蛮人」呼ばわりするなど、決して自身の文化的価値観を超越した存在としては描いていない点が好印象だった。
マヒートとスリー・シーグラスはその文化背景の違いからずれが生じるのだが、それを無理に理解しようとするのではなく、違うものとして丁寧にコミュニケーションを図る。その姿には心を動かされるものがあった。
表紙を開くと扉には以下の一文がある。
「本書をみずからの文化を滅ぼす文化に心奪われたことのあるすべての人に捧げる」
マヒートにとって帝国は最後まで帝国であった。それは常に強大な脅威でありながら、同時に荘厳で美しい憧れの文明である。
読者にとってもそれは同じだ。自分など、読み終わる頃には何かに圧倒されよくわからない涙が出ていた。
他国の文化を愛することとその国の政治を是とすることはイコールではない。本書を読書時、ウクライナに対しロシアが侵攻を始めたが、ロシアの文化を愛していた自分にとっては、何か深い部分を揺り動かしてくれた一冊となった。
Posted by ブクログ
連綿とした記憶の継承を可能ならしめるというSFらしいテクノロジーにまつわるエピソードを重ねていきながら後編へと盛り上げていく。各章の冒頭に置かれる両惑星の記述や通信文などがもたらす効果はちょっと分かりにくい。