愛情と狂気の深淵に飲み込まれる。親友が訪れた幽霊客桟から手紙が届くのだが… #幽霊ホテルからの手紙
■あらすじ
警察官の葉䔥(イエシャオ)に自宅に、かつての親友である周旋(ジョウシュエン)が訪ねてくる。彼は美しい女性と出会った逸話を話しだす。その彼女から木箱を預かり、木箱を幽霊客桟に届けてほしいと
...続きを読むお願いされたのだ。
幽霊旅館がどこにあるか不明だったが、葉䔥が調べあげることに成功。周旋は木箱を届けるために、幽霊客桟に旅立ったのだが…
■きっと読みたくなるレビュー
めっちゃ濃厚!
プロットもストーリーも人間関係もねばっこく、じっくりと味わえる良作です。
世界観としてはド真ん中ホラーで、つねに生死の間を漂っているかのようで不気味。それでいて愛に対しては純粋すぎて、その背景にある人間の業があまりにも怖い。
美しい描写が多く、また文中に様々な文学作品の引用やエピソードがちりばめられていて、ストーリーにも厚みが増す。日本の作品からの引用は、文学への恵愛と尊敬に溢れていて、同じ本を愛する者として、大変優しい気持ちになりました。
本書のメインは「第二章 幽霊客桟からの手紙」ですが、これはちょっとスゴイ。まさに周旋から葉䔥に宛てた手紙を読んでいくことになるのですが、幽霊客桟やその土地の歴史や謎、利用客の面々の描写がめっちゃ力強いです。
特に上手なのは小道具の使い方。木箱、蓄音機、写真、お墓、彫像など… 過去の人間の歴史を暗示する仕掛けが不安さを煽る。現実なのか幻なのか、本当なのか嘘なのか、生きているのか死んでるのかすらよくわからない。不気味さのなかにある混乱が、より読者を怖がらせ、でも熱中して読み続けてしまうんです。
そして謎解きとしても、おそらくよくミステリーを読んでいる人こそ唸らせる内容。そういうことだったんだ~と言う、からりとしたトリックではありません。作者のねばっこい、たくらみといった仕掛けで、ただ読み終わった後は胸にじんわりとくるものになっています。
海外ミステリーを読むたびに、いつも世界は広いなぁと感じますが、本作も例外ではありません。あきらかに本や文学、物語を愛している作家先生と分かる作品で、読んでいて嬉しくなりましたね。中国文学や文化を知るきっかけにもなるし、読んでよかったと思える作品でした。
■ぜっさん推しポイント
第二章後半の手紙。こんなに純粋な愛情表現は、久しぶりに読んだ気がします。情愛と狂気、そして憎しみや業が入り交じり、人間の底知れぬ部分が丸裸になっていく。
私はここまで情熱をもって生きたことがあっただろうか…
年を取ると安定やバランスばかり求めてしまいますが、力強く生きることの大切さは忘れずにいたいですね。