モダン・ファンタジーの歴史をたどりながら、ファンタジー作品に秘められた想像力の意義について考察している本。
前半は、「モダン・ファンタジーの父」G・マクドナルドから、ラブクラフト、トールキンとルイスなど、ファンタジー作品の歴史を、ていねいにたどっていきます。しかし後半に入ると、現代のファンタジー作
...続きを読む品の紹介とともに、それらが持つ政治的な意味についてのやや突っ込んだ考察が展開されるようになります。
著者は「序章」で、D・プリングルによる「ファンタジー」の定義を紹介して、ファンタジーには、「合理的できちんとした現実感とそれに裏打ちされた文学スタイルに対して、おかまいなしにどこでも勝手に侵入し、超自然的現象をもって現実的な秩序を崩壊される機能がある」と語っていました。著者は、このようなファンタジーの持つ想像力に、現実からその外部を見ることが、同時に外部から現実を見ることでもあるという両義性を見いだし、文明/野蛮、男性/女性といった現実の秩序を壊乱するようなおもしろさに読者を誘っています。
とくに、山田詠美の『アニマル・ロジック』をはじめとする現代日本文学のさまざまな作品に、上で述べたようなファンタジー的な想像力の諸相を論じている箇所には、著者自身「好きなものは書き始めるととまらなくなる」と語っている通り、それらの作品に対する著者の思いが溢れていて、一つひとつの作品を手にとってみたいと感じさせられました。