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冷戦時代、壁で分断されたベルリンにあった2つの動物園では、東西の威信をかけて競争が激化していた。ゾウや珍しい動物の数を競い合い、シュタージ(東の秘密警察)がお金を集めてメガネグマを買ったかと思えば、西のシュミットはパンダを入れるために画策する…。動物園はレジャー施設で、体制の象徴だった。いままで知られていなかった冷戦の歴史に迫るノンフィクション。
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Posted by ブクログ
終戦記念日まわりに読めてよかった。冷戦時代のベルリンの緊張感を感じさせつつも、動物園人の情熱が伝わる良ノンフィクションでした。
「西でも東でもない世界で、パンダを観せる」。 飼育員さんの苦労がしのばれます。 西ベルリンにある歴史あるベルリン動物園と、東西ドイツ分割によって東ベルリンに誕生したティアパルク。ベルリンの2つの動物園を、それを率いる二人の園長にスポットを当てながら描いた動物園ドキュメンタリー。 見方によっては、文...続きを読む化施設である動物園が戦争をいかにして乗り切ったか、というストーリーです。 動物園と戦争では、日本では上野動物園の「かわいそうなぞう」の話が有名です。本作でもベルリン空襲の爆撃で園外に吹き飛ばされて、供養(?)のため食材としてスープにして飼育員に食べられた「おいしそうなワニ」の話が収められいます。 一方、これら動物園にとって本当の戦争は、冷戦中に東・西それぞれの陣営に分かれてからです。 壁で隔てられているとはいえ、同じベルリン内で、それぞれの威信をかけて、影響力・人・そして貴重な動物の奪い合いが始まります。 パンダに始まり、シカ、サル、サイなどなど。 そもそもそこまで動物園が政争(といってもいい)のタネになるのも、利用者たるベルリン市民の動物園愛によるもの。 “二人の動物園園長が東西に分かれた都市のそれぞれの縄張りで発揮した政治的・社会的影響力は、冷戦下のベルリンだからこそ可能だった。だがベルリン市民と動物園の特殊な関係も見逃せない。何しろベルリン市民は動物愛好家どころか、動物フリークなのだ" 戦争〜冷戦という大変な時代だからこそ、ベルリン市民の動物園愛がそこかしこに感じられる一冊です。 日本の動物園好きも、動物園関係者さんにもぜひおすすめ。
1945年から50年近くにわたり、ベルリンの街は二つの国家に分かれていた。東側は社会主義国家、西側は資本主義国家というこの歪な都市には、様々なものが二つ存在していた。 二つの政府、二つの新聞、二つの劇場。動物園もまた、ベルリンに二つ存在するものだった。東側にはティアパルク、西側にはベルリン動物園。...続きを読む本書は第二次世界大戦末期からベルリンの壁崩壊までの約50年間を、二つの動物園の園長を軸に描いた年代記である。 東側の園長は名をハインリヒ・ダーテという。動物学者である彼は戦時中にNSDAP(ナチ)党員だったことで戦後に一時失職したが、復職を果たした。その経験から政治には関わらないようにしていたというが、シュタージ(秘密警察)にも意見を言えるほどの地位を東ドイツ内部で構築できたのだから、社会主義国家での身の処し方をよく理解していたのだろう。 西側の園長はハインツ=ゲオルク・クレース。獣医である彼はとにかく資金を持ってくるのが上手く、第二次世界大戦で大きく荒廃したベルリン動物園に多くの資金をもたらすことができた。彼もまた、資本主義での生き方をよく心得ていた。当人たちに政治的にナイーブな面があったとしても、である。 東と西には、独特の緊張感があった。互いが互いを意識し、張り合う一方で、時には手を取り合うこともある。人間である以上東の中でいがみ合い、西のなかでもいがみ合ったかと思えば、東と西で手を結んだりもする。しかし二人の園長は、東西ベルリンという狭い島で張り合うボスザルであった。 まず目を引くのは、第二次世界大戦後という時代は恐ろしい速度で倫理観がアップデートされたという点だ。戦後すぐはネールに子供たちが手紙を送ればインドゾウが動物園に送られてきた。日本でも上野動物園がこの手法でインドゾウを手に入れている。 動物商による狩猟も大々的に行われていた。アフリカでライオンやサイを捕獲して動物園に運んでくる、という取引が合法的に行われていたのだ。動物が商品、あるいは外交の道具になっていた時代というのが確かに存在した。 それが1975年にはワシントン条約が発効し、今では動物園はむしろ生態系の保護や繁殖に力を入れているのだから、権利意識のアップデートというのは凄まじく早いということが理解できる。 冷戦という状況をバックに繰り広げられる濃密な人間模様を眺めて、知らない世界に想いを馳せてみてはいかがだろうか。
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