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根津の鍼医宗悦が、貸金の催促から旗本の深見新左衛門に殺された。新左衛門は宗悦の霊と誤り妻を殺害し、非業の死を遂げ家は改易。これが因果の始まりで、新左衛門の長男新五郎と次男新吉を不幸が襲う。新吉は宗悦の娘で富本の師匠の豊志賀と深い仲に。豊志賀は弟子お久と新吉の間を疑い、7人の女房を取り殺すと書き残し死ぬ……続く血族の殺し合いは前世の因縁か呪いのためか。円朝の代表作にして最高峰。解説・小松和彦
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Posted by ブクログ
どこまでも付き纏う執念と、様々なところで繋がる因果が、読んでいて全く飽きなかった。 そして、これが1人の人間によって書かれたことに驚愕させられた。
古い落語話と侮ることなかれ。愛憎因縁殺戮の連続で、これを新作落語として連日高座にかけた圓朝何者やねんと思った。人物関係はやや複雑だが、今読んでもそれなりに読める展開の面白さと、ラストに大きな二つの物語が交わる巧妙さがある。
噺として聴くべきものを文字起こししてあるので、少し読みにくいかも。しかし繋がる怨嗟と因縁のすさまじいこと。終幕に向けて畳み掛けるような観音堂であらゆる事実が明らかになるシーンは、是非とも実際に聴いてみたい。 こんな話が頭の中で生まれるなんて、円朝師匠が落語の神様と呼ばれるのも首肯。
・三遊亭円朝「真景累ケ淵」(角川文庫)を初めて通して読んだ。さすがは累ヶ淵である。累がいくつも出てくる。「真景累ケ淵」といふと、私は歌舞伎の「豊志賀の死」をすぐに思ひ出す。落語ではなく歌舞伎である。この部分は死んだ豊志賀が姿を現すのだから歴とした怪談である。「実に芝居でいたす累とかお岩とかいうような...続きを読む顔つき」(75頁)で化けて出るのである。だから、ここがこの話のクライマックスかと思つてしまふのだが、実は全くさうではない。このことを私は知らなかつた。通しで読んでゐれば疾うに知つてゐたのに、それをしないばかりに大きな誤解をしてゐたのである。豊志賀、実は冒頭で殺された宅悦の娘であり、新吉、実は宅悦を殺した深見新左衛門の息子である。これもはつきりと意識してゐなかつた。だから私には「豊志賀の死」といつたところで、単なる怪談話に過ぎないのである。しかも、この豊志賀の件は全97回の20回あたりでしかない。先はまだまだ長いのである。それが展開するのは下総の国羽生村である。ここは累伝説の地、清元の「累」もここが舞台であつた。ただ、豊志賀が死ぬに当たつて残した書き置きの一節「たとえこのまま死ねばとて、この恨みは新吉のからだにまつわって、この後女房を持てば 七人まではきっと取り殺すからそう思え」(100頁)といふのが後の物語に大いに関係してくるのは、いかにも歌舞伎風の物語作りである。といふより、かういふ実は、実はの重なりはこの時代の物語の基本かもしれないと思ふ。それだけでなく、「解説」で小松和彦も書いてゐるのだが、これは因果応報、勧善懲悪の物語(468頁)である。その初めが宅悦殺しであり、続く豊志賀の死である。最後の方になると、勧めらるべき善はもちろん、懲らさるべき悪もほとんで死んでゐる。残るは惣吉と助太刀の相撲取り花車と仇の安田一角のみ、実際に女性が7人出てきたかどうかは分からないが、ほとんど皆非業の死を遂げる、つまりは殺されてゐる。これは見事である。といふより、ここまでああだ、かうだと言ひながら話を引つ張つてきた円朝の話術と物語が見事である。歌舞伎風ではあつても決して歌舞伎にはならない。歌舞伎の複雑さはない。かなり分かり易い。これが円朝なのであらう。 ・円朝の速記本が言文一致体に影響を与へたといふのはよく知られたことである。江戸の戯作にも話し言葉が多用されてゐたが、あれを書き言葉の参考にすることは難しいと思ふ。その点、円朝は落語家である。話をきいてもらふ立場である。私には円朝の話し言葉がどのくらゐ当時の話し言葉を明らかにしてゐるのか分からない。私個人の考へからすれば、この円朝の速記本は、話し言葉を丁寧にだが、しかし相当程度に再現してゐるのではないかと思はれる。極端な言ひ方をす れば、少し手を加へれば言文一致の文章になりさうである。例へば「さうでげす」などといふ言ひ方は現在ない。これを見るとどうやら結構使つたらしい。幇間等の言葉かと思へばさうではないらしい。かういふのを少し改めるだけでも言文一致になりうる。目をつけた方も立派だが、これを語つた円朝も立派である。もしかしたら現在の文章の大本はここにあるのかもしれないのである。幽霊を神経の病といふ円朝である。かういふ文章(の未来)のことを考へて語り、速記させ たのかどうか。これまで文庫本に何冊もなつてゐる円朝を初めて読んだ。おもしろかつた。江戸の戯作の世界であつた。この人が歌舞伎作者になつてゐたらと思ふ。落語より歌舞伎の人間の戯言である。そんな作品が語られ速記され、現在我々が読める。戯作より読み易い。有り難いことだと改めて思ふ。
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