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最高ってなんて最高なんだろう。僕らはいつも最高だ。明日またくる朝。浅漬──。現実から目を逸らし、表層的なハッピー感に拘泥する表題作「ゴランノスポン」。自らの常識を振り翳す人間の暴力性を浮かび上がらせ、現実に存在する歪みを描く「一般の魔力」。現代と中世が書物を介し烈しく混ざり合う「楠木正成」他、秘蔵小説7編を収録。笑いと人間の闇が比例して深まる、傑作短編集。
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Posted by ブクログ
どれもこれも思い当たる節のあるストーリーで心が痛い。「表層的なハッピー感に拘泥する」ゴランノスポンは就活でよく聞く「仲間に感謝」の行にインスパイアされてる?しかし表層ハッピーは続けられない。一点の綻びから本性があらわになる。 一般の魔力も思い当たる節があってつらい。自分を棚に上げて他人を批判、自分に...続きを読む非があることはすぐ忘れる。自分の嫌な気分を相手に察っしさせたい。この感情は普通なこと? 先生との旅は相手の能力を過大に評価して身動きが取れなくなってしまう物語。自分の中の普通と相手の普通が違うと思い込んでいることが元凶である。そこに至るまでのなんだかんだ理由をつけて断りのメールという嫌なことを先延ばしにする姿勢も私にそっくり。 というか全体的に見に覚えがありすぎてつらい。見られてたのかと思うほどにしっくりきてつらい。 ゴランノスポン(ご覧のスポンサーでお送りしました)というタイトルで幻想から醒める瞬間を表現した物語群らしい。醒める前はあるあると思うことも多いが、醒めた後は完全に町田康の想像。綺麗にまとまりすぎているという感想もあったが、やっぱり結論があったほうがすっきりする。
痛快!現代をひたすら皮肉る。最新から最後までにやにやして、たまに声出して笑ってしまう短編集。 「末摘花」は源氏物語のアンソロジーにも収録されていて、多分3回目ぐらいなんだけど、毎回同じ場所で笑う。一番気に入ったのは「尻の泉」。町田康特有のリズムで綴られるいかれた意識の流れ。くだらなさ。尻から泉が出る...続きを読む体質のせいでシャブ中にまで落ち込むどうしようもない主人公の悲しさ。各作品オチが秀逸でした。
『目を覚ましたらブラインドから縞の光が差しこんでいた。 素晴らしいことだと思う。 太陽が僕たちに降り注いで生命が育つ。大地が潤う。そんななかで自然の一部として僕らは生きているんだ。そのこと自体がとてもありがたい。感謝。誰へ? すべてにだよ。すべてに感謝して生きていく。空に、海に、きみに、自分に。』 ...続きを読む 『それぞれがそれぞれとしてそこにある。それこそが素晴らしい。空が美しい。感謝。』 『それぞれがそれぞれであること。 それが一番大事だと思う。 それぞれが大事なのさ。』 『けど同じことなんだよ。だってこんなに心がひとつになってるじゃないか。同じ、同じなんだよ。それぞれがそれぞれにみな同じひとつの音楽を聴いてる。あれ? ということはそれぞれの魂じゃないってこと?』 『すべてとすべてとすべてに感謝。自分のすごさを常に忘れないこと。そして感謝すること。』 『僕らはポジティヴな話しかしない。ネガティヴなことをいう奴はひとりもおらないのだ。世界中が僕らみたいな奴だったら戦争なんか一瞬でなくなる。感謝。』 『最高ってなんて最高なんだろう。僕らはいつも最高だ。』 『だから僕なんかは彼らを見て悲しくなる必要は毛頭なく、むしろ生きる勇気みたいなものを貰っているはずなんだ。ホームレス、最高。そして。感謝。』 『本日がデッドということで、そのデッドを超えてデザインが来ないということはどういうことかというと、もしできなかった場合、関係者全員(勿来山先生と事務所の人を除く)が切腹して死ななければならないということである。優秀な介錯人がいればそうでもないが、そうでない場合、切腹というものは苦しいもので、そしていまは介錯ができる人なんてそういないから、切腹は間違いなく苦しいもので、首つりじゃ駄目ですか? といいたいところである』 『ふっふーん、この繋がりはまったく意味が分からないが、よほど深い意味があるのだろう、と勝手に深読みしてくれる可能性がゼロとは言いきれない雰囲気が醸成されない可能性がないこともないこともない。』
「楠木正成」 楠木正成はいくさの天才で、いくさに命をかけている それゆえ、つねにやばい状況へと吶喊をかけずにはいられない そういう人なんだと思う 平和ボケしてロマンチストな現代人たる語り手は ミーハーな気分でそれに近づき 適当にあしらわれた挙げ句、流れ矢に当たって死ぬ 複雑な南北朝時代の動きを まあ...続きを読むまあわかりやすく解説してくれた語り手だったのに… 「ゴランノスポン」 偽の村上春樹みたいな文体でエコだのロハスだの言い 関係性の広がりが人間を高めるとかいったポストモダンな希望を謳い それでいて狭い身内の外に対しては極めて冷酷な そういうナルシストの偽善が ひとりの仲間の自死によって露呈してしまう 「一般の魔力」 公共の道徳にかこつけて八つ当たりや嫌がらせを繰り返している そんな彼は、自分を模範的な市民だと信じこんでいるのだが 根は怠惰な臆病者なので 娘のエゴや、親としての責任に真っ正面から向き合うことができない 「二倍」 演技で成り立つ演技会社に運良く入社できたものの 仕事上の失敗は演技と言って済まず クビになってしまう ダブルスタンダードじゃないか、と言っても無駄なんだ 常識でものを考えてほしいところだ しかしそれにしても 通常業務に加えて演技までさせられる現代社会とは 実に世知辛いところであるよなあ 「尻の泉」 清浄な泉が尻から湧いている そのため常に下半身がずぶ濡れで 常にオムツをつけてなくてはならない そういう、一種の聖痕を持つがゆえに世間から浮いた我が身の屈託 それが彼の人生をめちゃくちゃにしたのだ しかし堕ちるとこまでとこまで堕ちたとき、尻の泉は枯れ果て そのかわり頭に知恵が湧くようになり 彼は成功者になった すべては神の試練だったわけである そしてそれをクリアしたおれはすごい奴だぜ と思ってたら、実はまだぜんぜん試練は終わってなかったという 「末摘花」 子供のころ、占い師から不吉な予言を言われるなどしたために 光源氏は屈折したやりちん男に育った 女性に対してはマザコン的な高い理想を要求する一方 滅びゆくものたちにシンパシーを感じるニヒリストでもあった それで、零落した貴族の娘に興味を持ち 当時のことだから顔も見ないで同衾するのだけど あとになってこれが、とんでもない醜女であることが発覚した 「先生との旅」 本当はやりたくないんだけど 後々のしがらみを考えると断れなかった講演会 失敗は目に見えているが、なるべくなら大目に見てほしい つーかできれば、理由をつけて逃げ出したい そんな無責任からくる依存心が 救済ともなる災いを呼び込んだのだろうか
著者の小説、初読み。猫エッセイの文体そのままに、不条理な世界の短編小説が7編収録されていた。表題作「ゴランノスポン」が「ご覧のスポンサーの……」からという解説にショックを受けた。カバーの奈良美智の絵から「ゴランノスノポン」という変な単語が頭の中に何度も出てきてしまった。難しい単語が、ルビもなしにポン...続きを読むポンでてきて、これまた大変だったな。昔読んだ筒井康隆を思い出す。
町田康の小説は、その他大勢の群衆に埋もれて生きるひとの決して尊くない哀しみが、ぱっと見、明らかに哀しいのに読めば読むほど哀しみに思えず、哀しみであることを忘れさせる。 ページを閉じたあと、もやもやとした形で「哀し…」と脳内を哀しみのもやもやで薄く埋め尽くす、その清々しい脱力というか諦念が堪らない。 ...続きを読むそして、でも結局はフィクションなんだよなと、心置きなく離れられる軽さ。 丁度よい悲壮。 短編小説だからこその軽さであって、長編小説では、拭っても拭いきれない後味が残る。 それはそれで、またいいんだけれど。
仕事でも日記でもレビューでも、自分が文章を書くときには一応の約束事に乗っかって書いている。「一文を長くしすぎない」とか「文語と口語を区別する」といった、学校で習うような約束事だ。その約束事に乗っかることでどんな内容を書いてもある程度の読みやすさが保たれると思っている。 しかし、町田康の文章ではそうい...続きを読むう約束事がまるで無視されているように感じることが多々ある。 頭の中で流れる言葉をそのまま文字にしているような、夢の中で読んでいる文章のような、変な感覚。にも関わらず、内容が入ってくる。 どんな読書体験を経ればこのような文章を書けるに至るのか。 「ゴランノスポン」の陽キャ集団。 「一般の魔力」の常識人ぶった嫌な男。 「二倍」の実態が掴めない会社。 「先生との旅」でずっとあわあわしている男。 どれも楽しかった。
短篇集。面白いのとパッとしないのとあるんだけどその辺は好き嫌い次第かな。独特の文体が活きてる作品は普通の文体の作品にはない面白さがある。「一般の魔力」とその前後の作品が面白かった。一番最初のは個人的にはぱっとせず。読み進むと面白い作品に遭遇。文体の珍妙さに依るところが大きいのでそのへんを楽しめるかど...続きを読むうかが鍵かな。
町田康は、たしか「夫婦茶碗」と猫のエッセーを読んだことがあるのだけれど、どうもついていけなくて挫折した覚えが。にもかかわらず、今回手に取ったのは、ひとえにタイトルに惹かれたから。 しかし、やっぱり肌に合わなかった。最初の二編くらいまでは、ニンマリさせられたりしながら、まあ楽しく読んだのだけれど、後...続きを読む半はもう辛くなってきた。 溢れ出てくる言葉のセンスは分かるのだが、根本を貫いている、“ひたすらいい加減”な感じが、ダメなのかな…。
初めて町田康を読んだ。すごい文章。こういう文章力も文章力なんだと認識。ただ伝わるものと伝わらないものの差が激しく、そこはついて来いと言わんばかり。三つめの「一般の魔力」が一番わかりやすくもあり、面白かった。
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ゴランノスポン(新潮文庫)
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町田康
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