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不治の病を宣告された母が愛する娘のために選び取った行動をつづる表題作、明治時代の満州にやってきた熊狩り探検隊一行の思いがけない運命を描いた「烏蘇里羆(ウスリーひぐま)」など、あたたかな幻想と鋭い知性の交錯を透徹な眼差しで描いた16篇を収録した、待望の第二短篇集
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Posted by ブクログ
中国系アメリカ人作家ケン・リュウの日本における第二短編集。SFに留まらない多彩な魅力に富む全16編を収録。 「烏蘇里羆」「草を結びて環を銜えん」「重荷は常に汝とともに」「母の記憶に」「存在」「シミュラクラ」「レギュラー」「ループのなかで」「状態変化」「パーフェクト・マッチ」「カサンドラ」「残されし...続きを読む者」「上級読者のための比較認知科学絵本」「訴訟師と猿の王」「万味調和」「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」を収録。 SF、ファンタジー、歴史ものなどいくつかの要素が混合されているタイトルが多く、その多様な作品群はすべてを一括りに語れないものの、どれもが深い余韻を残すところがこの作家の特徴といえるだろうか。親子愛がからむことが多いのも特質のひとつ。 表題作「母の記憶に」は短いながらSF作家としての作風が明確に現れている印象深い作品で、本書の肝といえる。 「パーフェクト・マッチ」はSNS時代のディストピアを描いた古典的とも現代的ともいえるSF。というか、現代が昔のSFに追いついたというべきか。AIにすべてを決めてもらう世界は身近に迫っており、コントロールされた情報によって自分を失っていく危うさ、超管理社会に向かう現代世界への反抗が描かれている。この短編を読むと、現代の我々が、生きる奴隷として家畜化していく流れにあることがわかり空恐ろしくなる。 「残されし者」はシンギュラリティ後の、「意識のアップロード」が実現した世界が描かれる。そこで起こる衝突にはすでにリアリティを感じるし、これから人類が直面する現実的な問題として非常に考えさせられる、というか考えていかなくてはいけない内容が示されている。 いっぽうで「烏蘇里羆」や「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)」のような歴史改変SFぽい不思議な作品も楽しめる。逆に「草を結びて環を銜えん」は重く心を揺さぶられる。本当にこの作家は多彩だ。SFというイメージにしばられず、ぜひ一度手にとってみてほしい短編集。
ほんとすごい作家だ。3年間で54篇書いたとか、異常。 『母の記憶に』『存在』『パーフェクト・マッチ』
素晴らしきケン・リュウ! 表題作もいいが、ヒーロー好きとしては、スーパーなあの方と『三国志』きっての英雄をテーマにした作品がハートに刺さる。後者の主人公は「老関」と呼ばれ英語にすると〝ローガン“にもなるという…
やはりケン・リュウ、いいですね。短編集ですが、どれもニヤリとさせられる作品ばかりで、違うテイストの物語をたくさん楽しめるお得な一冊です。
一編一編がおそろしく練られた、まるで宝石箱のような短編集。取り上げる題材や時代は実に多彩でバラエティに富んでいるが、メッセージは根底では統一されている。それは“融合”。多様性の意義と実践が叫ばれる現代においてその輝きはさらに増して見える。特に「万味調和」は珠玉。
粒揃いの短編集。ケン・リュウの短編小説には何とも言えない余韻があり、次の話に取り掛かるまで浸る時間を要することが多い。悲しい結末の話も多いけれど、人物やその思想へのスポットの当て方には作者の温かみが感じられる。「草を結びて環を銜えん」「シミュラクラ」「訴訟師と猿の王」がかなり良かった。ミステリ要素を...続きを読む孕んだ「レギュラー」はこんな話も書けるのかと驚かされる。
『紙の動物園』は選りすぐりの短編集で、ベストセラーになったため、残った作品でこの本を編んだようだ。 前と同じくらい読みやすく、情緒的だったり、ストーリーが追いやすかったりというのを期待すると、読みにくい、分かりにくいと感じる人が多くなるのは当然だと思うが、だからこちらが劣っているとは思わない。むしろ...続きを読む、よりケン・リュウという作家の上手さを堪能できる作品集となっている。前作は「紙の動物園」「もののあはれ」がSFに興味のない層にも訴えかけるものがあった(そこまでしか読んでない人もいるようだ)が、こちらはテイストは似ていても、情緒性は押さえられている。 最初の「烏蘓里羆」は前作の「良い狩りを」に似たスチームパンクもの。「良い狩りを」は美女(妖狐)と幼なじみの恋愛小説っぽい面が感情移入しやすかったが、こちらは親子の因縁話で、正直言って「良い狩りを」程ではないなあと思った。確かに『ゴールデンカムイ』のイメージ。 次の「草を結びて環を銜えん」は、これこそ娼婦ではあるが気高い美女が出てくる歴史もので、なかなか良かった。但しSFではない。 個人的には次の「重荷は常に汝とともに」は大変面白かった。確かに未知の文明の文章を解き明かすとき、神話だったり法律だったりするだろうという希望的思い込みってあるよなあ。それに解読する学者の専門に左右されるよなあ、と。 「レギュラー」はSF要素はあるものの、どちらかというとサスペンスミステリ。映画になりそうな話。 『ライラの冒険』にヒントを得た「状態変化」、AIに支配される近未来を描いた「パーフェクト・マッチ」、シンギュラリティ後のディストピアもの「残されし者」、「文字占い師」に近い「訴訟師と猿の王」「万味調和」、そして「紙の動物園」「太平洋横断トンネル小史」に近い「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」」が良かった。 「訴訟師と猿の王」は、天安門事件のことを念頭に書いたのではないかと思った。支配者に不利な情報であるため、公的な歴史から消された事件でも、少数の意思のある人が外国の助けを得て必ず歴史に残す。そのために犠牲になった人、力を尽くした人を忘れてはいけない、というメッセージではないか。 また、「万味調和」で犬を食べた中国人をアメリカ人が非難すると、「わしらも犬をペットとして飼っている。ペットだったら、その犬は食わない。だが、この犬は野犬だった。阿彦(アーイェン)は自分の身を守るため殺さざるをえなかった。とても美味いのにどうして野犬の肉を無駄にしなければならんのだね?」(P426)という言葉は、捕鯨について日本人が考えていることと変わらない。まあ、調査捕鯨や浜に打ち上げられたクジラ、イルカに関しては、日本人はこう考えている人が多いのでは。商業捕鯨となると、食べるために野犬を狩るみたいなもので、この言い分は通らないが。 また、ここで描かれるアメリカに移住した中国人達の姿は日系人と変わらない。人種差別をされ、白人より安い賃金でよりハードな仕事をこなし、狭い家に住んで、裏庭で野菜を作り、粗食に耐える。数少ない楽しみは仲間と歌ったり、飲み食いすることくらいだが、音楽、食事など様々な文化が野卑なものと否定される。仕事に様々な工夫を凝らし、より効率よくなるよう、また製品がより上質なものとなるよう細心の注意を払い、価値を上げる努力を怠らない。 日本人で中国人を差別する人いるけど、どこに違いがあるというのか。 この本で、読者が随分篩にかけられただろう。次を読む人は、これが楽しめた人で、売上は落ちるであろう。 でも、本当に素晴らしい作家だと思う。まだ若いのでこれからも傑作を期待できる。
ケン・リュウ2冊目の作品集。版元は“短篇集”としているが、ショートショートから中篇ほどの分量があるものまで含まれている。作風も実に多彩。ただ、前作『紙の動物園』でも思ったことだが、意外にワンアイディア小説が多い。本書の中で最長の「万味調和」は、開拓期のアメリカを舞台に、砂金掘りの中国人とアメリカ人の...続きを読む娘の交流を描いた作品。なんと『三国志』まで登場する。サイバーパンク風の「レギュラー」や、GAFA的未来の「パーフェクト・マッチ」などは、長篇のほうが向いているのではなかろうか? この人の長篇を読みたい。
ケン・リュウの小説は絶対に面白いな。既に名作選と言ってもいいくらいだ。『万味調和』が特に好き。ゴールドラッシュの時代、アイダホに流れ着いた中国人・老関=”ローガン”と彼が語る関羽の物語。
この短編集も『紙の動物園』と同様に読む人の心に痛みのような(但し不快ではない)鋭いものを残す。小説を書くってこういうことだよねと『白磁海岸』の作者に言いたい。
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