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476年、西ローマ帝国が滅び、地中海は群雄割拠の時代に入る。「右手に剣、左手にコーラン」と、拉致、略奪を繰り返すサラセン人の海賊たち。その蛮行にキリスト教国は震え上がる。拉致された人々を救出するための修道会や騎士団も生まれ、熾烈な攻防が展開される。『ローマ人の物語』の続編というべき歴史巨編の傑作。※当電子版は単行本上巻(新潮文庫第1巻、第2巻)と同じ内容です。地図・年表なども含みます。
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Posted by ブクログ
あいかわらずの塩野節で、飽きさせない一品。 イスラムの海賊がキリスト教徒に対してどう対したかがよく分かった。ジハードとグエッラ・サンタ、どちらも聖戦と訳すのだなと妙に納得した。トルコがEU加盟を望んでいるが、この本を読んでしまうと、イスラム色を一掃できない限りトルコのEU加盟は無理と思ってしまう。 ...続きを読む [private]以下心に残った部分 ・情報とは、量が多ければそれをもとにして下す判断もより正確度が増す、とは、全くの誤解である。 情報は、たとえ与えられる量が少なくても、その意味を素早く正確に読み取る能力を持った人の手に渡ったときに、初めて活きる。P.57 ・トップを失ったアラブ人の兵士たちを、ルッジェロ指揮下のノルマン・シチリア軍に編入した。全く、現代のどこかの国に見習ってほしいくらいに見事な戦後処置である。P.196 ・継続はやはり力なのだ。P.202 ・正直一筋では外交にはならない。P.203 ・国民が拉致されても国家間の外交には無関係、ということであろうか。なんだか、どこかの国の外務省と似ていなくもない。P.239 ・複式簿記になって初めて、多くの地に張りめぐらされているマーケット網も、一望の元に把握できるようになったのである。これが、経済の発展に寄与したのは言うまでもない。P.241 ・ゴールドが貴重視されてきたのは、銀や銅と比べて保存度が断じて優れているからだ。私もカルタゴとアレクサンダー大王の金貨を二枚もっているが、二千三百年も昔のものとは思えないほど、今なお燦然と輝く黄金色のままである。P.245 [/private]
【穏やかかつ波高く】地中海を視点の中心に据え,東西に目配せをしながら中世という激動の時代を切り取った作品。秩序が崩壊した世界における歴史ドラマを描き出して行きます。著者は,『ローマ人の物語』等の名作を数々世に送り出している塩野七生。 地理的にも空間的にも隔てられた世界に関する歴史書でありながら,...続きを読む人間の生き様を中心に据えているため,自分のことのように読めてしまうのはさすがに塩野氏の作品ならでは。キリッとしまった警句も読む者をハッとさせてくれますし,身になる読書がどういうものかが体験できるかと。 〜海上からこれらの観光地を眺めるたびに,そして今では,,レストランやナイトクラブに使われていたりする「サラセンの塔」に出会うたびに,「パクス」(平和)とは,所詮は普通の庶民の安全を保障することである,と思わずにはいられなくなる。そして,こみあげてくる苦笑とともに思う。人間とは,安全さえ保障されれば,けっこう自分たちでやっていける存在なのだ,と。〜 『ローマ人の物語』をむさぼり読んだ大学時代を思い出しました☆5つ ※本レビューは上下巻を通してのものです。
塩野七生女子にしてはマイナーなテーマを選んでいる。 地中海でイスラムの海賊が長年にわたって荒らしまわって、その勢いはイタリア占領の一歩手前まで行ったことを知らなかった。 知っているのは、トゥール・ポワティエの戦いでキリスト教側がイスラム勢力をくい止め、ヨーロッパが救われたということだけ。 十字...続きを読む軍のずっと前から始まり、18世紀まで続いていたことはマイナーなテーマどころか、キリスト教世界にボディーブローのようにダメージを与えてきたことは中世を知る上で欠かすことの出来ない歴史だろう。 塩野女史の大好きなオトコマエの英雄は登場しないが、サラセン海賊に光を当ててくれたお陰で、中世が俄然面白くなった。 ぼくがヨーロッパを旅行して強く感じたことは「恐怖」だった。 それは、モンゴルによる恐怖であり、蛮族に押されて移動してきたゲルマンであり、北の海から襲ってくるバイキングであると思っていたが、南から襲いかかるサラセンの海賊の恐怖もあったのだとこの本で知ることが出来た。 今年は北アフリカから大挙押し寄せてくる難民問題がクローズアップされたけれど、地中海を南から北に吹く季節風が大きく影響しているんですね。 難民たちがボートに乗ってヨーロッパに渡るには夏の季節がチャンスなんですね。
この本で初めて奴隷救出のために何百年間も活動を続けた修道会や騎士団が存在したこと、その活動で何十万人も救出されたことを知りました。地中海での海賊被害を強く実感して、中世の地中海世界への認識が変わりました。
ローマ帝国の崩壊後の混沌とした地中海沿岸世界(ここでは主にイタリア)と、北アフリカに勢力を伸ばしたイスラム教との関係を軸に中世前半のキリスト教とイスラム教の関係を明らかにしてゆく。 上巻は西ローマ帝国崩壊後に未だに東ローマ帝国支配下にあった南イタリアとシチリアに、北アフリカのサラセン人がイスラム教の...続きを読む聖戦という名目で海賊行為を拡大して言った様子が描かれる。海賊といっても、金品略奪だけでなく、殺戮と住民の拉致を行い、拉致したキリスト教徒を北アフリカの海賊立国都市で奴隷として使っていたことや、それを首長(アミール)が容認していて国家としての事業であったこと、それに対して、領地を守るべきビザンチン帝国を全く機能していなかったことなどが細かく書かれている。7世紀から8世紀のイスラムの海賊にやられっぱなしであったキリスト教勢力の実情を考えれば、イスラム勢力をポワティエの戦いで破り、西欧を守ったシャルル・マーニュ(カール大帝)の功績が今日まで大きく取り上げられるのもうなずける。西暦800年、フランク王シャルルは時の法王レオ三世により、神聖ローマ帝国皇帝の称号をさずけられるが、このことはイタリアを含む西欧世界のビザンチン帝国からの決別となる。今までの世界史ではこのあたり、というか中世は混沌としていて、一貫性がなくわかりにくかったけれど、海賊被害という点から見ると、いかに中世の産業・文化がローマ時代のそれよりも後退したか、なぜ暗黒の中世というのかがわかる気がする。 中国なら三国誌の時代、日本なら戦国時代なのかな?でも、キリスト教世界は常に外敵の危険を抱え、それに対して防御となる大きな力がなかったことが一番の問題だったのだろう。 キリスト教の指導者であるローマ法王と世俗界の指導者達は、独善的な信仰心と支配欲でもって大局を見据えることができなかった。それに対し、合理的でより民主的であったイタリアの海洋都市国家(アマルフィ・ピサ・ジェノヴァ・ヴァチカン)がイスラムとの交易をしながらも自国の防衛に組織的に対応していたことで、繁栄していたのだ。この本では同時にシチリアという島が地中海の覇権を左右する大きな鍵であったこと、そしてそのシチリアがイスラムに支配されてからというもの、独自の共生路線でキリスト教徒と融合していたことなどがとてもわかりやすく書かれている。とにかく情報量が多いので読むのに根気を要するが、それでも歴史書に比べたら大変読みやすい。いつの間にか読み進んでいた感じ。でも、途中あまりにも単調な海賊行が繰り返しなのに辟易するが、それは作者とて同じこと、かなり割愛しているらしい。ああ、中世に生まれずに良かった!
暗黒の時代と呼ばれるローマ後の世界。巻末の年表はオドアケルによるローマ帝国滅亡から始まっている。 内容はシチリアを中心にしたイスラム海賊史がメイン。
面白かった
あまり馴染みのないテーマだが 面白かった。 イスラム対キリスト。 キリスト側の防戦一方だったんだな。 何があったのかは書いてあるけれど なぜそうなったのかはちょっとわからない というのが私の感想です。
ローマ亡き後の地中海世界を彩るキーワード「神聖ローマ帝国」「イスラムの台頭」「海賊」「イタリアの海洋都市国家」「十字軍」をつなぎあわせ、ひとつのストーリーとして書き下ろした歴史書である。
本書は、「ローマ人の物語」(全15巻)の続編として、ローマ帝国崩壊以降の地中海世界の興亡を描いた書であるが、とにかくおもしろい。「ローマ人の物語」では、「ユリウス・カエサル」を描いた2巻が最高に面白く、おそらく著者もそこを一番書きたかったのではなかったかと思わせるものであるが、本書も、歴史のダイナ...続きを読むミズムを教えてくれるものであると思った。 本書では、西ローマ帝国が滅亡した紀元476年以降を描いているが、「イスラムの急速な拡大」や「十字軍」、「海賊」等々、内容は詳細だが、おもしろく、地中海の風景が目の前に浮かぶような文章だと感じた。 この時代のイスラム教とキリスト教の対立はなんとすさまじいものか。延々と戦い、延々と殺しあう、正義と正義の戦いだ。なんと不毛なことか。その被害の大きさには、ため息さえ出ない。人間とはなんとおろかなことか。現在でもイスラエルとパレスチナの戦いを見ると、過去を笑うことはできないと思った。人間とは進歩がないと言うべきか、代わらないのが人間だと言うべきか。 ヨーロッパの詳細な歴史を知る機会は、あまり多くはなく、学校の歴史教科書でも数ページ程度かと思う。本書は、ヨーロッパの土台を教えてくれる本であると感じた。分厚さの割には、飽きずに読める良書である。
「ローマ人も物語」の続編… 地中海はキリスト教国と、イスラム世界の対立が続く 「海賊」の認識がひっくり返る キリスト教とイスラム教の対立は永遠に続くと思わざるを得ない イスラム勢力圏の急速な台頭、アラビア半島から始まり、100年でペルシャからスペインまで征服、「新興の宗教が常に持つ突破力と、...続きを読むアラブ民族の持つ征服欲が合体した結果」」「右手に剣、左手にコーラン」 狙われる修道院、「貧しさを徳とし神に生涯を捧げた修道僧たちが、祈りと労働に明け暮れる静けさに満ちた日々を送る宗教施設…中世の修道院ではない」 「神に祈ったことが成就しなくても、それは信仰心が不十分である…」 「プラスには必ずマイナスがついてくる、拉致に対する救出活動が盛んになればなるほど拉致が金になり、続いていく…」 地中海に海賊が消えたのは、1830年フランスがアルジェリアを植民地にしてから。
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