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ある者は朝食を用意している最中に、或いは風呂を沸かしたまま、忽然と姿を消した。四国山間部の集落で発生した老人の連続失踪事件。重要参考人となった父に真相を質すべく現地に赴いた医師は、村人が隠蔽する陰惨な事件に辿り着く。奇妙な風習に囚われた村で起る凶事。理不尽な差別が横行した60年前の狂気が、恨みを増幅して暴れ出す――。ハンセン病差別の闇を抉る慟哭の長編小説。
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Posted by ブクログ
これはヤバいです。 本当に考えさせられて、泣かされる本です。 皆さんに読んでもらいたいです。 本当に、最高でした。
家や故郷を追われたハンセン病の人たちが行く当てもなく四国遍路を延々と続ける過去があったことは知っていた。しかしそれは一般の遍路道ではない。カッタイと呼ばれ蔑まれながら人目につかないように移動したり、死体の処理など人々が嫌がる裏方仕事をすることでしのいでいかなければならなかったとは。信仰や発願成就の意...続きを読む味合い以上に、どこにも行けず堂々巡りをしていた人たちが、ほんの最近ともいえる昭和30年代くらいまで存在していた。 物語はハンセン病の人たちが受けた苦しみ、不条理を色濃く描き出す。現代の失踪・殺人事件に過去が絡んでくるミステリー小説の体だが、ミステリーの色よりハンセン病の人たちが苦しむ姿にうまく焦点が当たっている。 そんななか、主人公の父が幼い頃過ごしたカッタイ寺での日々は浄土のような桃源郷のような別世界の様相。そして山奥の集落の異常さも印象に残る。小さな共同体を平穏に営むために目をつぶっている異常の数々。民俗学的な視点からも興味深いありようが描かれる。嘘のような現実がつい最近まであったという驚き。 一方で、ハンセン病の人々以上に不条理を感じたのが男と女のあり方。ハンセン病患者として社会から低く見られている患者たちのなかで、さらに男たちが女を低くみたり慰み者にする。著者が意図しているかはわからないけれど、男たちのうっぷんの晴らしどころとしての性欲の発露、それが女性であったりいたいけなものに向けられる姿に、気分が悪くなる、怒りがわいてくる、悲しくなる。 著者はドキュメンタリーやルポルタージュ作家として高名。当初はノンフィクションとしてまとめようとしていたが、その限界や関係者の心情に配慮することでこういう小説としてまとまった。取材したなかには真実として表すには難しいものがあったということ。事実は小説より奇なりということか。
山奥の集落で起きた老人たちの失踪事件。養父の殺人未遂で服役経験のある父が関わっているのか、60年前の悲劇との関係は。 ハンセン病患者が隔離され、差別されていた時代の患者たちの苦しみや悲しみが重い。伝染力の強い病気だと思われていたことや患者の症状が外見に出やすいこと、国の政策であったことから、本当にど...続きを読むれだけ大変だっただろうと思うと辛い気持ちになる。話自体はフィクションとはいえ、同じ過ちは繰り返さないようにしないとと思う。 ミステリとしては、殺人のくだりがちょっと安易すぎる気もするが、最後のサプライズは何だか府に落ちて、よかった。ミステリ好きだけでなく、ハンセン病について知りたい人にも読んでもらいたい本。
解説にもある通り、やるせなさを感じた。ハンセン病は教科書で表面上だけ習ったのみで詳しいことはあまり知らなかった。だが本書を通じて、未だに苦しみが続いていることを知った。ネットで気になり検索してみたが本書ほど詳しい情報は載っていなかった。今自分にできることは何かあるのかということを考えるきっかけになっ...続きを読むた。著者のノンフィクションの作品を数々読んできて、初めてフィクションを読んだ。帯にはノンフィクションを超えたフィクションと書かれていたが、ノンフィクションを超えたという表現が少し引っかかる。ノンフィクションもフィクションと同じ、ノンフィクションというジャンルの物語だという風な感じがあり、ノンフィクションとフィクションを天秤にかけ、それよりも内容が優っているため、超えたという表現を使っているように思えてならない。ノンフィクションよりも便宜的に伝わりやすくしたフィクションだと思うので、ノンフィクションを超えたというより、歴史を元にしたフィクション、などと言った謳い文句にして頂きたいと感じた。著者が今まで体を張って体験したノンフィクションの出来事にノンフィクション、フィクションで優劣をつけて欲しくないと言った気持ちになった。今後も深い視点の著者の作品を読み続けたい。
フィクションではあるが内容は数多の取材による真実の結晶である。昨今、日本人は素晴らしいというTV番組が多い。誇らしい気持ちもある(過熱気味で気味悪さも感じているが・・・)。そんな日本人も鬼になるし、鬼畜の所業の過去がある。現代を生きる僕らに出来ることは、過去を知り、絶対に鬼にならないという固い決意。...続きを読むぜひ本書を手に取ってほしいと思う。 あらすじ(背表紙より) ある者は朝食を用意している最中に、或いは風呂を沸かしたまま、忽然と姿を消した。四国山間部の集落で発生した老人の連続失踪事件。重要参考人となった父に真相を質すべく現地に赴いた医師は、村人が隠蔽する陰惨な事件に辿り着く。奇妙な風習に囚われた村で起る凶事。理不尽な差別が横行した60年前の狂気が、恨みを増幅して暴れ出す―。ハンセン病差別の闇を抉る慟哭の長編小説。
単なる老人の失踪事件かと思いきや、ハンセン病の悲しい歴史が絡み読後は泣けた。ハンセン病は過去の病気でなくまだ苦しんでいる人がいる。是非読んで欲しい。文書も上手く小説としても面白い。
偏見と差別をここまで生々しく… 面白かった、という言葉は相応しくないと思うが、ハンセン病のことをもう一度振り返るきっかけになった
ノンフィクション作家として有名な著者のフィクション作品。 ちょっと慣れない感じのミステリーに違和感を覚えたが、全部読んで、ノンフィクションじゃ書けないものもあるという認識をした。 香川には行ったことがあり、お遍路さんもみたことがあった。 四国の山並みを想像しながら読むと、その悲しさが浮き彫りにな...続きを読むった。
ハンセン病差別の闇について書かれた小説である。石井光太は迫害されるマイノリティーのノンフィクション作家という認識から、さほどの期待をせずに読みすすめる。文末には「すべてはフィクションである」という但し書きが添えられていた。 そうは言っても、あの石井光太が元ネタの取材なしにこれだけリアリティのあ...続きを読むる小説を書いたとは到底思えない、それほど弱者(ハンセン病患者)への迫害の描写が真実を語らせる。住職の言葉が印象的だ「感情をもって生きていけることがどれだけ幸せで尊いことか・・・それはお前の宝なのだ・・・」(P297)
きっと綿密な取材をしたのだろう。読むのが辛い叙述もたくさんあったが、読んでよかった。少しはハンセン病と差別について知ることが、感じることができたと思う。 今度は本当の声を聞きたい。
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