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都を落ちのびて瀬戸内海を転戦する平家一門の衰亡を、戦陣にあって心身ともに成長して行くなま若い公達の日記形式で描出した「さざなみ軍記」。土佐沖で遭難後、異人船に救助され、アメリカ本土で新知識を身につけて幕末の日米交渉に活躍する少年漁夫の数奇な生涯「ジョン万次郎漂流記」。他にSFタイムスリップ小説の先駆とも言うべき「二つの話」を収める著者会心の歴史名作集。直木賞受賞。
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Posted by ブクログ
ジョン万の素晴らしさに着目した井伏さんは最高です。私は井伏さんが大好きです。 この話の素晴らしいところは沢山ありますが、前半の船の中での食べ物の下りが最高すぎます。ジョン万の素晴らしさは、努力だの勤勉だの人徳などではなく、あそこにあると思いました。いや、人徳の原点はあれだと思います。腹が減った時こそ...続きを読む人間の真価が問われると思います。
ジョン万次郎に興味があって、3つの短篇のうち「ジョン万次郎漂流記」を最初に読んだ。勝手に司馬遼太郎の『菜の花の沖』(やはり江戸時代にロシアに拿捕された商人、高田屋嘉平を描いた小説)みたいな壮大な娯楽物語を想像しながら読み始めたが、すいぶん雰囲気が違う。大げさな感情描写や細かい時代背景の説明などはほと...続きを読むんどないまま、淡々とした描写が続く。それでいてじわじわ伝わる何とも言えない滋味深さ。読み始めの拍子抜け感から一転、うなりながら読み終えた。次に読んだ「さざなみ軍記」にはさらに感じ入った。一度では味わい尽くせない、文学作品の魅力がすみずみに。またうなる。再読必至。(「二つの話」はちょっとピンとこなかった)。
「さざなみ軍記」は読んでいる時はなんだかやけに淡々とした話が続くなあ、と言う感覚だったのだけど、解説を読んで足かけ9年かけて少しづつ発表して主人公の成長を描こうとした作品だったと知ってなるほどと納得がいった。それにしてもそれだけ長い期間かけて割と短い期間7月から3月までの必ずしもクライマックスがある...続きを読むわけでもない作品を淡々と書くのもなかなか。 「ジョン万次郎漂流記」はとても面白く読めた。数奇な運命というしかないけど、どこまでが史実でどこまでが井伏鱒二の創作なのかはわからない。もちろん基本的な出来事は実際の記録に基づいているのだろうけど小説的なセリフや行動は登場するアメリカ人たちの振る舞いが井伏鱒二的な鷹揚さを感じさせて良い。昭和12年の作品ということはまさに戦争に進んでいく日本でこのような作品が描かれて直木賞も受賞していたわけで、何となくの感慨がある。 「二つの話」は実験的な小説を手元にある材料で作ってみようとしたけどオチはつけられなかったというかんじ。二つのエピソードはそれぞれ面白いんだけどね。
『ジョン万次郎漂流記』のみの感想。 幕末から明治初期にかけての実在の人物についての小説。資料にない部分は井伏氏の空想で補われている。 冒険譚として非常に面白かった。 土佐で貧しい漁師だった万次郎は15歳の時の正月に他の四人とともに漁船に乗っていて、嵐に会い、一週間ほど漂流した。 ようやく周囲...続きを読むが一里ばかりの無人島に到着し、そこを当座の棲家とした。彼らは島でただ一箇所岩の窪みに水が溜まっている所だけを“井戸”として大切に使い、あほう鳥を取って食べるなどして命を繋いでいたが、それも限界に達した頃、そばを通りかかったアメリカの漁船に助けられた。 身振り手振りでかなり言葉が通じ、そのアメリカ人たちは万次郎たちに大変親切にしてくれた。 ハワイのオアフ島で5人は上陸し、4人はそのままオアフ島に残り、生活の保護まで受けて不自由なく、暮らしたが、万次郎だけはホイットフィールド船長に大変気に入られたので、そのままジョン・ホーランド号に乗り続け、太平洋を横断しながら捕鯨し、やがて、アメリカのマサチューセッツに上陸し、船長の家族と共に暮らすことになった。 アメリカで万次郎は学校にいかせてもらったり、農耕牧畜の余暇に読書したり、測量を教わったりして、教養を身に着けた。また、捕鯨船に乗り組んで、アフリカやインドのほうまで捕鯨に行ったり、一人カリフォルニアまで銀の採掘に行ったりもした。 立身出世する人というのは、いつの時代でも、どんな場合でもやることが違うのだなと感心した。面白かったのは、万次郎が捕鯨船で世界を回っているとき、2回くらい、日本の船と出会っているのに、その時は言葉が全然通じていないのだ。アメリカの船に助けられた時にはあんなに言葉が通じたのに、いくら万次郎の土佐弁とその時出会った船に乗っていた日本人の方言が違うといっても、心の問題なのだな。 何年かたち、ある時、万次郎はハワイに行って、昔一緒に漂流した仲間を訪ねる。一人は病死してしまっていたが、あとの3人は元気に働いて暮らしていた。日本へ帰る相談をし、一人はハワイに残ると言ったが、万次郎を含むあとの三人は中国へ行く商船に乗せてもらい、日本の近くで下ろして貰ってそこから小舟で自分たちで上陸する計画を立てた。大変危険な計画だったが果たしてそれは成功し、万次郎達は沖縄の島の一つに上陸出来た。 一通りの取り調べを受けたが、アメリカのことや英語を知っているということで、薩摩藩主らに気に入られ、やがて日本に黒船がやって来たころ、通訳として江戸に呼ばれた。その後、捕鯨、造船、測量の分野などで活躍し、福沢諭吉や勝麟太郎らとともに咸臨丸に乗ってサンフランシスコにも渡った。晩年には開成学校で英語教授をした。そして、アメリカに行って、恩人ホイットフィールド船長にも会うことが出来た。 初めに漁船が漂流した時には生きていたことだけでも奇跡であったのに、その後はなんと運が良かったのだろう。勿論、運を引き付けるものを万次郎たちは持っていたのだろうが、鎖国時代で、しかも日本がアメリカに武力を見せつけられて脅される少し前に、万次郎たちが出会ったアメリカ人たちはなんといい人たちだったのだろう。ファンタジーかと思うくらい素晴らしかった。 この小説が発表されたのは、昭和12年、日米間が険悪になり始めたころだそうだ。
どちらも、淡々と書かれている。面白かった。 作者の感情は隠されていて、でもどこかしら意欲的な感じを受ける。
一軍の将というものは、覚丹の表現によると部下に対して「猥りに糺さず、もってその志を犯さず、気を失わしめず」と心得るべきだというのであった。 伝蔵は言った。 - 世界のはては東西南北みな同じように、行くところまで行けば東西南北みな世界のはてにきまっている。いや、この島はまだ世界のはてとは思われぬとし...続きを読むても、助船がこの沖を通ろうとは夢にも考えられぬ。今日この島に着いたが最後、この島で朽ちはてるよりほかはないだろう。しかし考えようによっては、今日この島に着いたのが天地初時(あめつちはじめのとき)とも考えられぬでもない。みんな気を大きくして、そういうことにしたらどんなもんだろう? 他の四人のものは、ではそういうことにしようと答えて衆議一致した。つまり現代の言葉で言いおなせば、当日をもって無人島紀元元年の第一日と定め、おのおのその生命を慈しみ人生に対する懐疑を捨てようという説である。
さすがに練達の作家の手になる歴史小説だと感じる。平易でありながら、その時代の空間の奥行きや手触りとともに、主人公たちの心理に、すっと入りこむことができる。
たしかジョン万次郎がよみたくて買ったんだったと思う。 でもジョン万次郎も面白かったけど、さざなみ軍記がおもしろくて 驚いた覚えがある。 終わりははっきりしないけれど、そこも含めて面白かったんだよね。
伊坂幸太郎編の短編集の中に井伏鱒二の「休憩時間」があり、そういえば、「山椒魚」と「黒い雨」以外読んだことなかったなあ、と、名前は有名な「ジョン万次郎漂流記」を読んでみた。 司馬遼太郎の作品にジョン万次郎はしょっ中登場するけれど、彼を主人公にするとまた違った物語りに感じた。 漂流者は5人いた訳だが...続きを読む、ジョン万次郎だけが、抜きん出て語学を習得出来て、観察眼に優れていたのは何故か。シンプルに、若く知的好奇心が強くかつ地頭がよかったんだろう。 語学の面では、後に続く者は大量にいただろうから、やがて相対的な価値は落ちていったのだろうが、あの時日本にジョン万が出現した、ということは奇跡のような出来事だと思う。 正しいときに正しい場所にいることの難しさと、そうなった時のダイナミズムを感じる作品だった。
3作品収録。平家の逃亡を描いたさざなみ軍記、ジョン万次郎の生涯の2篇は(さざなみ軍記は読みにくかったものの)面白かった。2つの話はそそられず。
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