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発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる……。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に侵食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる、僕たちの物語――。「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」。
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Posted by ブクログ
「カラス」が良かった。 希望に満ちたニュータウンが一転して呪いになる。 少しだけ得をした隣人を群れになった住人たちが襲う。 いや、襲うというか村八分か。 リアリティーがありながら、ストーリーとしてはホラーになっていて恐ろしかった。 住人たちの気持ちを理解できてしまう自分が辛い。
怖い、つらい、苦しい、悲しい、そんな感情が織り混ざる。でも、ページをめくる手は止まらない。どうなるんだ?どうするんだ?読み手を物語の世界に誘っていく。人間の内面をえぐる、上質なホラー小説ではなかろうか。読後感が良いとは言えないにもかかわらず、何度も読みたくなる秀作である。
3つの短編のうち、『扉を開けて』が一番考えさせられた。一才の息子をなくした夫婦、その息子と偶然にも同じ名前の男の子が最初に出てくる。そこから惹かれた。終始悲しい気持ちが胸からあふれる感じ。 『陽だまりの猫』は旦那の伸夫さんという人間と、決断力がなく酷く不器用な みどりさんの夫婦のストーリーに苛立ち...続きを読むを覚え、男女の不平等さ、昔の概念が描写されていて心が締め付けられるようだった。 『カラス』はとりあえずホラー、廃れたニュータウンに閉じ込められたような主婦は怖い。
再読です。何回読んでも面白いですね。3つの短編、「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」 特に「カラス」が怖くて好きです。 コロナ禍の今、あえてこういう物語を読むのもいいかもしれません。
三編ともフィクションだが、何処かにありそうな話ばかり。つい自分だったらと置き換えて読んでしまった。 確かに暗く重い三編だが、人の心理を突くいい話だった。
解説の篠田節子さんが言っているが、夫婦関係について書かれているにも関わらず婚外の異性関係は描かれてない。僕が今まで読んできた夫婦を扱った小説は必ずと言っていいが、婚外の異性関係が描かれていた。だから、夫婦関係について書かれている小説の中で異質であり、また混沌とした 部分も多く見られ、内容は重いもので...続きを読むあったが、読み応えのある作品だと思った。
重松氏は、重いテーマを「どこにでもある大問題」として描くのが大変に上手い作家さんだと思います。 だから、「うっぜー鬱小説」とか、「あるある日常小説」とか、そう思って自分から切り離すことができない。 感じるのは、一般常識としての痛みでなく、自分の中に確実に存在する痛み。かつて経験したことのある痛み、も...続きを読むしくは予期不安のような痛み。 彼は、かようにして、読み手に大きなストレスを与える、迷惑極まりない作家さんです。 本作は特に、後味のあまりよろしくない作品が詰まっているので(「カラス」「扉を開けて」「陽だまりの猫」収録)、重松作品初挑戦のかたは、『ビタミンF』か、少なくとも『ナイフ』辺りから読み始めていただきたいなぁと思います。(今や重松信者の私の、初挑戦は『ナイフ』でした)(イヤ『ナイフ』もたいがい重いヨ!!) (その辺の作品から読み始めたかたはきっと、本作も突っぱねることができないくらいの重松中毒患者になってるんじゃないかと思います) 私は、重松さんのような父親がほしかった
解説者曰く、ゴーストライター重松清が表舞台に出て来た。ミステリーだ。面白い!切り口が興味を引く。みどり&あたいの関係も新鮮。 ハッピーエンドなおのろけ3編
「見張り塔からずっと」 家族の終焉。 重松清さんと言えば、心情を描くのが抜群に上手い。だから心があったまるものは、普通の小説よりももっとあったまる。が、決して暖かいものだけではない物語になると、より辛い気持ちになったり、悲しくなったりしてしまう。本作は、間違いなく後者に該当する中編集です。収録さ...続きを読むれているのは、以下です。 1.カラス 発展の夢を断たれた住宅地ツインヒルズ・ニュータウンの住人たちの鬱屈と歪んだ「復讐」を描く中編。 土価が天井知らずの高騰を見せるバブルに購入したマンションがあっという間に価値が下がり、売ったとしても赤字確実。住人たちは、何故このマンションを買ってしまったのか鬱屈を溜め込んでいた。そんな中、転居してきた榎田家族のある言葉が、住人たちに火をつけてしまう。 非常に辛くなる物語。何気なく言ったかも知れない言葉がたまたま聞かれてしまい、それが広まり、嫌がらせになり、そして関係のない子供が巻き込まれる。何より怖いのがそんな状況の中、主人公夫婦がある種生き生きしていくことです。妻は自治会を立ち上げ、生活にハリが出るようになり、夫はそんな妻に性欲を覚える(というか回復する)。生々しいリアリティです。 なによりもカラスの存在が抜群。主人公たちの気持ちを代弁するかのようにクエッと鳴く。そして、陰湿な復讐を住人たちの代わりにしてやったかのような攻撃。抜群でした。 2.扉を開けて 幼い息子を亡くした夫婦の癒されぬ哀しみと苦悩が詰まった物語。 無くした息子と同じ名前の健太という少年は、いつも部屋の近くでサッカーボールを蹴っている。その音がうるさく注意しようとするがなかなか出来ない。一見住人トラブルに発展して行くかと思いきや、夫婦の哀しみと苦悩にフォーカスされていきます(大体マンションの隣で朝っぱらからボール蹴ることを注意しないダメ親に腹が立ちますが) 最後の描写が凄い気になります。これも辛い中編です。 3.陽だまりの猫 妻として母親として誰にもまともに扱ってもらえない若妻《みどりさん》の人生を賭けた決断が辛い。 みどりは、15歳から付き合いだした伸雄(当時22歳)と結婚した。幸せか、不幸かと聞かれたら幸せ。しかし、幸せか、不幸か、どちらでもないか、と聞かれたらどちらでもないと答える。それが、みどりの真実である。 ちょっと気を遣えない、ちょっと分からない、色々ちょっと〇〇な部分をそこまで言うお前はなんやねん!と言いたくなる伸雄 with 伸雄母。もしかしたらざらに良くあることなのかも知れないが、辛いものは辛い。 全部読むと気を落とす可能性大です。次は、とんびにしよう。。。
質的には高い作品です。物語の中にどんどん引き込まれていきます。しかし、怖いですね。 「カラス」はニュータウンのマンションで起こる現代版村八分、大人のいじめを加害者の立場から描いた作品です。陰湿な喜びを感じながら、一方でいつか自分が被害者になることを恐れる、そういった加害者心理を上手く描き出していま...続きを読むす。 「扉を開けて」は5年前に赤ん坊を亡くした夫婦と生きていればその位になっただろう子供の係わりを描いた作品です。子供の幻影を見る奥さんの侘ない精神状態と、それを援け、繋ぎとめようとする夫。精神の危うさが上手く描き出されます。 「陽だまりの猫」はマザコンの夫と19で結婚した「何も出来ない」妻と姑の話です。これも一種の陰湿ないじめの物語です。妻は意思を持つ《あたし》と物語の登場人物である《みどりさん》を使い分け、夫や姑の仕打ちをかわそうとします。しかし、自分の存在自身を否定された時に、妻は復讐を企てます。 重松さんの作品は初めてです。上手いと思います。直接表現ではなく、回りどんどん状況を作り上げて行き、きっちり一つの世界を作り上げていきます。そういえば、元々ノンフィクションライターでもあった様なので「架空の世界のノンフィクション」という感じもします。 しかし、読後に暗くのしかかる物はあっても、爽やかさはありません。再び手にするかどうか。
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