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Posted by ブクログ
ジョン・タウランドの『流れよ、わが涙』(涙のパヴァーヌ)をタイトルに持つ本作。作中にも触れられていて、ディックはクラシック音楽が好きなんですね。
ある朝、男が目を覚ましたら誰も自分を覚えていない…国家データバンクからも記録が消失した”存在しない男”になっていた。男の名は、ジェイスン・タヴァナー。一般人ならいざ知らず、彼は歌手であり司会も務める、三千万人の視聴者に愛されるマルチタレント。誰もが知っているはずなのに、かつての愛人まで知らないと言う。そして、管理社会であるこの世界で必須のIDカード(身分証明書)も無い…あるのは大量の現金だけだった。
彼は、何が起きているのか確かめるためにも、偽造でもいいからIDカードの入手に迫られ、偽造ID製造を生業にしている女性に接触します。しかし、その女性の精神異常に翻弄されて、その後は警察に目をつけられることに。警察でも彼の記録は確認できないでいましたが、フェリックス・バックマン警察本部長だけは”ジェイスン・タヴァナーは実在している”と考え動き出します。
という話しなのですが、後半は視点がタヴァナーからバックマンに移ったり、パラレルワールドかと思ったらそうではなかったり、と全体的に説明不足ながらも意外性のあるストーリーで楽しめました。それは、ひとえに解説が秀逸なこともあるのだけれど。例えば、タヴァナーとルースとの愛についての会話のやり取り(この場面、結構好きです)で、なぜタヴァナーがあれほどドライな応対だったのかとか、エンディング間際のバックマンの大袈裟過ぎなのではと思われた行動などが理解できて良かったです。
※読んだのは、黒背景の表紙がポジトロンの文庫です。
正誤 15刷
P263の8行目:
なっったように思えた
↓
なったように思えた
Posted by ブクログ
「有を名TVのMC・歌手で3000万人の視聴者を持つ男」が目覚めたら薄汚いモーテルにいた。誰も自分を知らず、政府のIDバンクにもデータがない「名無し」になる、というサスペンスフルで思わず読みたくなる導入から始まる。が、そこから主人公と女たちの会話に重点が置かれて愛と別れが語られ文学的な味がする作品となる。後半ではもう一人の主人公である警察署長に視点が移ってしまい当初の緊迫した謎や展開はどこかにいってしまう。
個々のエピソードは素晴らしいが全体としてみると序盤の期待が外れてしまうため残念がところがある。はじめから愛と別れをテーマにした文学作品だと思えばいいのかもしれない。
Posted by ブクログ
最愛の人に去られたディックの自伝的小説という趣の強いこの作品は、自己の同一性や認識している世界の崩壊というディックの作品に通底している恐怖をベースにしつつ、もう一つのテーマとして愛を割と純粋に語っている作品でもある。愛は自己保存の本能を凌駕し他者への献身、執着をもたらす。
作中で様々な人物が自分なりの愛を見出そうとしているが、その中で主人公であるジェイスン・タヴァナーだけは愛を理解しない。それは彼がスイックスだからかそれとも生来のものなのか。
現実の分裂は観測者だけのものではない。観測されるものもそれに巻き込まれる。
また絶望の底に落ちてからの再生を匂わせて終わるところもらしい部分である。
その他にも警察機構、大学、学生運動、ドラッグなどディックの実体験も物語の随所に散りばめられている。
Posted by ブクログ
フィリップ K ディック 「 流れよわが涙と警官は言った 」
近未来SFの面白さもあるが、キーワードは 涙の意味であり、愛のサイクルの物語(愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する)だと思う。特に ジェイスンとルースレイの愛についての会話は素晴らしい
近未来SFとしての面白さ
*遺伝子操作→優生学→スイックス
*KR3服用者の知覚対象全てが 現実世界から非現実世界へ移行
愛のサイクルの物語
*愛のサイクル=愛する→失う→悲しむ→悲しみが去る→また愛する
*ジェイスンが愛するもの(失ったもの)=自分、人々の記憶
*バックマンが愛するもの(失ったもの)=詩的な美しい世界、ルール→失った悲しみの象徴は 涙→涙により自分を取り戻せる
ダウランド「涙のパヴァーヌ」にバックマンの詩的世界を投影しており、ダウランドを聴くことにより 失った悲しみを忘れることができる
ジェイスンとルースレイの会話
「愛しているときは もう自分自身のために生きているんじゃない、別の人間のために生きている」
「愛は本能に打ち克つ。本能は私たちを生存競争に押し込む〜他人を犠牲にして自分が生き残る」
「愛があれば あなたが消え去っても 幸福感をもって 愛する者を見守ることができる」
「悲しみは あなたと 失ったものを もう一度結びつける」
「悲しみは自分自身を解き放つことができる〜愛してなければ悲しみを感じることはできない」
「悲しみは消え去って この世界でもうもう一度うまく折り合っていく」
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