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河越重頼の娘、郷姫は源頼朝の命により、初恋を捨て義経の許へ嫁いだ。周囲は彼女を鎌倉の間者と疑い、義経も次第に愛妾に思いを寄せ、妻を遠ざけるようになる。しかし、彼女は夫を一途に思い続けた。源平の戦いや頼朝・義経兄弟の争いにも巻き込まれていくなか、子を産み、最期は義経と共に壮絶な死を遂げた郷姫。戦乱の世を気高く生きぬいた一人の女性の生涯を描く。歴史に隠された真実が心揺さぶる時代長編。
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Posted by ブクログ
義経の正妻については、ほとんど知らなかったので読みましたが、いい作品だった。 郷姫の心情が女性視点でよく描かれていて、架空の人物も違和感なく物語に溶け込めて読んでいて面白かったです。
義経といえば静御前で本妻は影の人というか、ほとんど注文されてなかった人を主人公にする作者の視点がよかった。
大河ドラマで最近退場してしまった義経と郷姫。 タイミング良く読んだのだが、実は単行本は2005年に出ていて篠さんの出世作らしい。 義経の戦いや運命については史実通りで、大河ドラマのような斬新な解釈や演出はない。 だがこの作品ならではの設定がいくつかあって、それが物語をよりドラマティックに最後の悲劇...続きを読むを盛り上げている。 一つは頼次という架空の人物。入間川を流されてきたところを郷に救われた記憶喪失の少年は後に記憶を取り戻すのだが、彼女への想いを秘めたまま陰に日向に見守る。 もう一つは畠山重忠と郷との秘めた恋愛関係。大河ドラマの重忠と郷(ドラマでは里?)のキャラだとイメージが湧かないが、こちらではそれもアリだなと思える。 更には郷と静との関係。大河ドラマとは真逆で互いに信頼し合っている。 郷は静とは違い『平凡な容貌』ではあるが『爽やかで気高い心を持っている』女性。彼女を象徴する花が柚香菊(ゆうがきぐ)という野菊だ。一見小さくてみすぼらしいその花は、嗅ぐと微かな柚のような香りがするという。それを嗅ぎ取れる人間は、郷の父・河越重頼と畠山重忠、そして頼次だ。三人とも彼女を支え影響を与える。 郷は頼朝から推し進められた婚礼話に対し、河越家と重忠の今後を考え、重忠への想いを封印し受け入れる。 一方の義経はイメージ通りの美男子。郷が嫁入りする前からすでに静とは深い関係にあり、そこはドラマとは逆の順番になっている。 だが義経は静のことを愛妾というよりは『同志』であると言い、郷からは静への義経の想いは『母を慕う情愛の形』のように見えている。 この三人の関係はありがちな三角関係とは全く違って興味深い。そこに頼次や重忠がどう割って入るのかにも注目だ。 義経は当初、郷に対し実母・常盤御前のような『人の言いなりになる者』という見方をしていた。『自分の運命を、自分の手で切り開いてきた』『私の心は分かるまい』とまで言って遠ざけている。 だが郷は静や義経の心に触れるうちに、追い込まれていく義経の側に最後までいたいと強く望むようになる。その時の郷の心にはすでに重忠はいない。彼女は流される者ではなく、自分で自分の運命を決めた人間になった。 この作品での頼朝は猜疑心が強く本心を見せない男、政子は相手を委縮させる気性の激しさを持った女、北条時政に至っては『自分より下と見切った者に対しては徹底して見下した態度を取る』『身震いするような嫌悪感』と散々な描かれようだ。 『自らは手を汚さず、戦場にも赴かず、勝利と幸福の恩恵だけにあずかっている人々』という不平等な世界の頂点に彼らはいる。 その逆にいるのが義経、郷、静、頼次、そして畠山重忠だ。彼らの運命は頼朝と政子、そして北条家に翻弄され蹂躙され、さんざん利用された挙句に捨てられる。 だがそんな彼らにも意思があり感情があり命がある。 わずか五年の結婚生活で義経と郷は様々な紆余曲折を経て真の夫婦となり、郷は父と弟を犠牲にしてまで思いを貫いた。 大河ドラマの義経夫婦の関係も斬新で面白かったが、こちらはオーソドックスながら悲恋物として感情移入出来た。 静も頼次も重忠も、もっと書けば葛の葉も、これは皆の悲恋の物語。だが悲恋だからこそ美しくも見える。 ドラマでは義経の最期に対面するのが義時だが、こちらは頼次。その対比も面白い。
静御前の陰に隠れ、ほとんど語られることのない義経の正妻にスポットを当てた点に惹かれて手に取ったが、予想以上の面白さ。冒頭から引き込まれ、終盤、平泉入り後はウルウルしっぱなしだったし、これほど切ない義経最期の場面も初めて。初読みの篠綾子さん、情景が目に浮かぶような美しい文章で、内面描写も巧み。とても...続きを読む読み易かった。2005年「義経」の時に刊行され、17年後「鎌倉殿の13人」放送に際し文庫化と、多分に大河ドラマ便乗っぽい。でも、お陰で目に留まって良い読書体験ができた。
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