殺人を犯した“かも”しれないという依頼人の登場で始まる死体なき殺人事件。当人に自覚のない殺人事件とはー?
年寄り扱いされたことを根に持ち、オリヴァ夫人の趣旨のぼやけた会話にうんざりするポアロは人間らしく魅力的なキャラクターで、ポアロに合わせてついつい他の登場人物にも感情移入をしてしまう。始めの4/5でゆっくりと謎や設定をばら撒き、最後にパズルのピースを勢いよく当てはめていくようなストーリー展開で、ポアロと共に謎を解明したい人向け。灰色の脳細胞を持つ名探偵に圧倒されたいなら短編集?久しぶりにアガサクリスティの作品を読んだので、こんな感じの作風だったかなと少し違和感を覚えたが、どんでん返しの展開は相変わらずだ。ただ、他作品は余韻を引くような終幕を迎えたように記憶していたので、突然謎が解明してスパンッと話が終わるのには驚いた。車やエレベーターが登場するなど現代的な印象を抱かせる作品だった。「第3の女」というタイトルはあたかも殺人事件に第3の関係者がいるかのように感じさせ、ある意味読者に対するミスリードとも捉えられなくもないが、これは和訳の問題だろう。The Third Girlであれば、事件関係者を意味するのだろうが、原作はThird Girlなので、作中にオリヴァ夫人が解説するように「メインではない」というニュアンスでこの表現を使用しているのだろう。それとも敢えて定冠詞を付けないことで、二重に含みを持たせているのだろうか。ところで、ソニアの本の件は結局何だったのだか気になる。