神の亡霊 近代という物語

神の亡霊 近代という物語

3,080円 (税込)

15pt

4.7

責任ある主体として語りふるまう我々の近代は、なぜ殺したはずの神の輪郭をいつまでも経巡るか。臓器の所有、性のタブー、死まで縦横に論じ反響を呼んだ小会PR誌『UP』連載に、著者の思考の軌跡をふんだんに注として加筆した渾身の論考。すべてが混沌とする現代の問題に、自分で思考することを試みる。


【本書「はじめに」より】
神は死んだ。世界は人間自身が作っていると私たちは知り、世界は無根拠だと気づいてしまった。もはや、どこまで掘り下げても制度や秩序の正当化はできない。底なし沼だ。幾何学を考えるとよい。出発点をなす公理の正しさは証明できない。公理は信じられる他ない。どこかで思考を停止させ、有無を言わせぬ絶対零度の地平を近代以前には神が保証していた。だが、神はもういない。

進歩したとか新しいという意味で近代という表現は理解されやすい。だが、近代は古代や中世より進んだ時代でなく、ある特殊な思考枠である。科学という言葉も同様だ。科学的に証明されたと述べる時、迷信ではなく、真理だと了解する。しかし科学とは、ある特殊な知識体系であり、宗教や迷信あるいはイデオロギーと同じように社会的に生み出され、固有の機能を持つ認識枠である。科学的真理とは、科学のアプローチにとっての真理を意味するにすぎない。

人間はブラック・ボックスを次々とこじ開け、中に入る。だが、マトリョーシカ人形のように内部には他のブラック・ボックスがまた潜んでいる。「分割できないもの」を意味するギリシア語アトモスに由来する原子も今や最小の粒子でなくなった。より小さな単位に分解され、新しい素粒子が発見され続ける。いつか究極の単位に行き着くかどうかさえ不明だ。

内部探索を続けても最終原因には行き着けない。そこで人間が考え出したのは、最後の扉を開けた時、内部ではなく、外部につながっているという逆転の位相幾何学だった。この代表が神である。手を延ばしても届かない究極の原因と根拠がそこにある。正しさを証明する必要もなければ、疑うことさえ許されない外部が世界の把握を保証するというレトリックである。そして、神の死によって成立した近代でも、社会秩序を根拠づける外部は生み出され続ける。

このテーゼが本書の通奏低音をなす。虚構なき世界に人間は生きられない。自由・平等・人権・正義・普遍・合理性・真理……、近代を象徴するキーワードの背後に神の亡霊が漂う。表玄関に陣取る近代が経糸を紡ぐ。その間を神の亡霊が行きつ戻りつ、緯糸のモチーフを描く。


【主要目次】
はじめに
序 近代という社会装置
第1回 死の現象学
第2回 臓器移植と社会契約論
第3回 パンドラの箱を開けた近代
第4回 普遍的価値と相対主義
第5回 「べき論」の正体
第6回 近代の原罪
第7回 悟りの位相幾何学
第8回 開かれた社会の条件
第9回 堕胎に反対する本当の理由
第10回 自由・平等・友愛
第11回 主体と内部神話
最終回 真理という虚構
あとがき

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神の亡霊 近代という物語 のユーザーレビュー

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感情タグBEST3

    Posted by ブクログ

    近代以降の価値体系の中で育った人間の常識を粉々に粉砕する本。

    表題である『神の亡霊』が、この本の重奏低音をなすテーマである。では神の亡霊とはいかなるものなのだろう。それは、近代における神の否定と同時に立ち現れる、自由意志などの虚構のことである。

    神の否定は、ニーチェのかの有名な「神は死んだ」

    0
    2020年07月17日

    Posted by ブクログ

    人間社会において”正しさ”は外部からでしか定義できない。かつてはそれを担っていた”神”を人は近代になって殺したとされるが、”正しさ”を定義するモノはやはり外部、”神”の亡霊として存在し続けているといった内容。

    かつて公表したエッセイをまとめて、足りない部分に注釈を足した形なのだが、本文よりも注釈の

    0
    2020年06月16日

    Posted by ブクログ

    私たちの生活という営みは、法律や規則、習慣や文化などの様々な体系によって制約を受けている。しかしそれらの体系を、私たちはなぜ遵守するのだろうか。体系の正しさを基礎付ける根拠とはいったい何なのか。

    近代以前、それは「神」だった。神の存在が私たちの道徳や価値観、また国を形づくる法などを規定していた。し

    0
    2019年05月05日

    Posted by ブクログ

    宗教にの特集で朝日新聞の読書欄の推薦本である。本人はフランスで社会心理学を教えている日本人である。また、この本は東大のUPで連載したものに注を加えたものとなっている。したがって、11章に分かれているが、本文よりも注の方が長い。東大生すべてがUPを読んでいるわけではないが、注を参照しながら読むと、かな

    0
    2023年07月16日

    Posted by ブクログ

    2020年度の東京大学の入試問題で取り上げられた文章が入っている本。骨のある文章だが、上級生にとっては物足りないと感じる本かもしれない。著者とは異なる専門領域を学ぶ筆者でこうなのだから、哲学や政治学等を学んでいる上級生にとっては簡単すぎる内容だと推測される。大学2年生までに読んでおくのがいい。

    0
    2020年02月29日

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    避妊、教育、死刑制度、臓器移植などへの逡巡を神が失われた観点から述べる興趣が尽きない内容でした。あるレビューには筆者の迷いしか書かれていないとありましたが、彼の遅疑とともに考えてこそ楽しめる本ですね。

    0
    2021年02月20日

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