1789年にイギリスで刊行されたマルサスが著した古典『人口論』
人間の人口と食糧の関係性を法則として明確に提示した書物だ。
「人口は等比級数的に増え、食糧は等差級数的に増える」とマルサスは論ずる。
つまり人口はかけ算で増え、食糧は足し算的にしか増えないということ。
その前提にあるのは、
1
...続きを読むつは、食糧は人間の生存にとって不可欠であること。
2つ目は、男女間の性欲は必然であり、ほぼ現状のまま将来も存続すること。
そして
こう結論づける。
人口の増加は食糧によって必然的に制限される。
食糧が増加すれば、人口は必ず増加する。
そして、人口増加の大きな力を抑制し、実際の人口を食糧と同じレベルに保たせるのは、貧困と悪徳である、と。
この貧困と悪徳では、
貧困の方が抑制力があると説く。
悪徳で人口増加を抑制するというのはどういうことか。
戦争、疫病、そして大飢饉だ。
つまり人口と食糧のバランスが崩れると、必ず貧困、また悪徳によって人口調整の力が働き、人口増加を抑制するということだ。
現在にあっては、
この人口はかけ算で食糧は足し算というのは必ずしもそうだとは言えないし、
しかも食糧の生産量は土地に制限され、人口が増加し続けることへの問題はすぐにでも勃発するような言い方をしているが、ここに関しても疑問である。
すぐにでも食糧不足による危機が訪れると書かれてから、すでに200年以上たち食糧不足の地域ももちろんあるにはあるが、今や飢餓で死ぬのが100万人。食べ過ぎが原因で死ぬのがその3倍の300万人であるからして、食糧がないことに困る以上に、あり過ぎて困るという始末だ。
カール・マルクスによって散々けなされたこのマルサスの『人口論』だが、結局は共産主義というのは幻想であったのだということが、歴史を見れば明白なのであって、マルサスのこの『人口論』というのは、上述したような不正確なこともあるが、それでも今も尚、本質を突いた鋭い洞察として感じるところは多々あり、それが今もこの古典を読む価値なのだろうと思う。