■海外に出れば、知的財産や生産の技術が流出しかねない。そんなリスクは負いたくない。悩んだ末の結論は「ハイテク戦略の中核製品だけは、勤勉な労働者が多い日本で作る」
■製造請負を管轄する役所は無かった
■社会保険に加入させないケースも少なくなかった。こうした行為はもちろん違法だが、発覚しても、メーカーは
...続きを読む「知らなかった」といえば、それ以上、追及されない。
■クリーンルーム。語感的には、体にいい場所のように聞こえるが、皮膚呼吸が止められ、動けば厚い。動かないと汗で冷える。照明は高速道路のトンネルと中と同じ黄色一色。輝度が高いから眼が悪くなる。ほこりを除去するため、水分も取り除かれて、空気は乾燥している。一定の光、一定の温度で、昼も夜もわからなくなる。トイレは、いったんクリーン服を脱いで、終えたら着て、セキュリティシステムを解除し、エアシャワーを浴びる。
■偽装請負の監督は、違反者を逮捕することのできる労働基準監督署ではなく、雇用創出を目的とする公共職業安定所だった。安定所の職員は、「雇用が失われる事の方が心配で、厳しく指導できなかった」と釈明する。
■戦後日本の製造業は、中卒・高卒者と、冬は雪で農業の出来ない東北・北海道の期間工に支えられていた。1985年のプラザ合意をきっかけに、日本国内の労働賃金など製造コストが割高になり、日本は円高不況に。これを打開するため、多くの日本の製造業が海外に工場を移転した。
■90年代は、電話一本で人を集められる商売があった
■生産現場は、ものづくりに高い使命感を持っている。直接来ようであろうと、請負であろうと、そこにいる労働者で、決められた量の製品を一定の品質でつくることを何よりも優先する。「そこに居る人だけで何とかやり遂げる」のが生産現場のDNAだからだ。
■富士アウトソーシングを選んだのは、工場勤務では唯一、時給制ではなく月給制だったからだ。
■自前での指揮命令は完全にはできていなかった。製造装置のメンテナンスも「簡単なものならできるが、難しいものはキヤノンにお願いする」本当の請負にはコストが掛かる
■労働者の多様化の1つとして、派遣社員と請負社員がある。実は、このおかげで、日本の産業の空洞化がかなり止められている
■2006年5月、派遣契約の労働者を全員再び請負契約に戻した上で、パネル製造ラインで労働者を指揮命令する立場だった松下社員を1年の期限付きで請負会社に大量出向させた。製造ラインで請負会社に出向した松下社員が請負労働者に指揮命令しても、請負会社内での指揮命令となるため、偽装請負とは形式上言えなくなる。しかし、請負会社への大量出向は職業安定法違反にあたるとして是正指導された。この出向は労働者供給事業に該当した。出向が反復継続または常態化すると違法だが、技術指導などの目的がある場合は社会通念上、労働者供給事業に該当しないと判断される。
■製造請負の業者数は誰も知らない。官庁が無く、統計も無いためだ。電機総研が2003年に発表した「製造業務請負業の生成・発展過程と事業の概要」によると、請負会社の数は「大小合わせて2・3千社を下限に1万社も有り得ない数字ではない」という。
■クリスタルの強さは、徹底した顧客ニーズの分析と、それに基づく決め細やかなサービス提案力
■クリスタルの一番の売り物は、人の出し入れの速さ。パンフレットに「垂直立上・垂直撤収」と見出しをたてた。大口顧客をいくつも抱える利点を生かし、メーカーが閑散期に入ると、速やかに作業員を引き上げ、間をおかずに、繁忙期に入ったメーカーに移し替えた。しかも数百人規模で一気に移し替える早業。
■精密機械メーカーが、指先の器用な女性を大量に欲しがっていると聞くと、強力な営業力を使って若い女性を必要なだけ揃え,更衣室やロッカーなど、女性の受入に必要な設備をセットで売り込んだ。
■メーカーの余剰人員まで引き受けた。バブル崩壊後は、リストラ対象の社員やパートが大勢いた。そこで「不要になった人員のうち、正社員なら出向、パートなら転籍の形で我々が引き受けます」と提案した。引き受けた人員はクリスタルが請負労働者として別のメーカーに送り込む仕組みだった。このシステムは「出向転籍システム」と呼ばれていた。
■労組にもセールスをした。生産現場への請負導入に賛成すべきかどうか迷っていたとき、請負を早くから利用していた松下電器産業の工場に連れて行き、作業の様子を見せて説得し精工をおさめたこともあった。「100人の要請に対し99人しか集まらなかった場合は、背広姿の営業マンが残りの1人になるべく、作業着に着替えて、作業員に早変わりした。それが我々の文化だった」
■1980年代末のバブル経済期に、大手都市銀行がビルの高層階に「空中店舗」と称した店を構えた事がある。支店ごとに決められた地区割営業の慣習を捨てて、全国どこにでも営業して良い権限を与え、身内同士で競争させる手法だった。ノルマによる締め付けはほとんど効果が無く、この仕組みは長くは続かなかった。
■創業者の林は2006年10月、保有するクリスタル株式会社をすべて匿名の投資ファンドに売り渡した。これをグッドウィルが買った。グッドウィルは安い買い物をしたと評価する一方、同業者でそう考える人は少ない。労働市場を冷静に分析すると、林の方が一枚上手で高値で売り抜けたという。手にした創業者利益は800億円。