この本が出版されたのは1994年である。
今から20年前の本だが、この当時、おそらく著者が抱いていたであろう「分離主義の危険」は今もより根深い問題として残っているのではないだろうか。
「キングが唱えた非暴力による公民権運動によって、今日の黒人の発展がもたらされたことは、だれも否定できない事実である。
...続きを読むしかし、その発展の恩恵を受けていない貧困層が厳然として存在することも明らかである…貧困層の絶望が深まれば深まるほど、白人との統合を拒否し、分離主義が強まっていく危険性が高くなる。黒人の児童を白人の児童から切り離し、黒人だけの学校をつくろうとする動きもある。黒人の児童に劣等感を感じさせないようにするには、分離教育がよいのだという」(18頁)
ここで筆者の述べる懸念は、この分離主義が経済格差の問題とリンクして、台頭してきていることだ。これは将来アメリカの分裂につながるのではと危機感を抱いている。
こうした点ではキング牧師もマルコムXもそれぞれの出自やその思想は当初異なっていたが、次第に重なる部分が現れてきたのだという本書の指摘は重要であり、興味深い。
キングとマルコムの行動の重なりでいえば、両者とも人種的な誇りや自立への努力を訴えたことだろう。キングもマルコムも人種を超え、社会において恵まれない境遇の人たちに誇りを持たせ、自立を促し、その救済を指向していた。その中には白人の貧困者まで含まれるような運動を展開していた。そうした視点は今もなお重要だと思える。