著者のことはサークル村の主要人物の一人ということは知っていたが、その著作で読んだのは『からゆきさん』と『まっくら』の二冊。本書は、著者が自らの原郷とする生まれ育った朝鮮での17年間の生活を回想したもの。
著者は、理想化肌の朝鮮学校の教師である父と、優しく慈しんでくれる母との間の長女であった。そし
...続きを読むて父の学校異動の関係で、慶尚北道の大邱、慶州そして金泉に住んだ。
幼き日の思い出から著者は朝鮮での生活を細部まできめ細かく描いていく。朝鮮人のアブジやオモニの姿も自らの見たままに生き生きと描かれる。こんなにも瑞々しく記憶にとどめ文章として表現できるというのは本当にすごい。
愛情を注いでくれる両親ー特に父はあの時代に ”自由放任” を教育方針と言っていたほどの人物であったがーの下で育つ著者は、ある意味では内地の日本より伸び伸びと育ったのであるが、当時の朝鮮での体験を今の時点で書く著者の思いは苦い。自らの愛した故郷が日本が植民地としていた地であることを知り、オモニやアブジが日々の生活に痛みを感じ、日本人をどのように思っていたかを振り返って考えるようになったから。
戦後ずいぶんの年月が経過したが、今なお重い問いを投げかけている一冊だと思う。