難しい論理展開も単語もなく、するすると読めるが、
実は魔女裁判だけでなく、その周辺、悪魔、魔術師、キリスト教の教義の広範囲にわたって情報量が非常に多い。例えば、
魔術師はもともと、神の名と権威とラテン語等の学識をもって悪魔を支配し使役してしたのであり、
呪術や薬草を使ったり、いけにえを捧げるような
...続きを読む低級な魔法使いとは一線を画していた。
魔女は超自然的な魔力が身体に宿っていると考えられていたが、
後に悪魔との契約という概念が生まれ、契約により魔女になれると考えられるようになった。
旧約聖書では、
悪魔は神に逆らった元「天使」なので知性的な本性を持っていると考えられ、
蛇は狡猾な動物だが悪魔ではなく、
サタンは神への告発者ではあったが敵対者ではなかった。
BC200年ごろペルシャ思想の善悪二元論が入ってきた影響により、サタンが悪魔となり、
ヨハネ黙示録では蛇(龍)=悪魔=サタンとなった。
魔女裁判は財産没収を目的として拡大していったという意見に対し、
実際には貧乏な施しを求めるような人々が魔女とされたことも多く、
物乞いをする隣人に対して中世以降の伝統である施しをせず、資本主義精神むき出しの利己心で追い払った罪の意識が投射され、その隣人を魔女とみなしたのではないかという意見もある。
魔女裁判における宗教改革とは、
カトリック教会が温存しているさまざまな呪術(聖体拝領や悪魔祓い)を異教の残滓として排撃したこと、
神の摂理を強調し、
村に疫病が流行ってもそれは魔女の仕業ではなく、
神の意志なのだと主張したことであった。
など、様々な事例や知識がちりばめられていて、
奥が深かった。