『不自由な心』白石一文
5作品の短編?中編?作品集。
どうして私は白石一文の作品にこんなに吸い込まれてしまうのだろうといつも思う。
本作は特に。
「家族を蔑ろにし、不倫を繰り返す、仕事のできる男」たちの物語。
言ってしまえばただそれだけ。
不倫男がうだうだと言い訳を繰り返しながら周りを振りま
...続きを読むわし傷つけるだけのお話。にも見えてしまうのに。
共感でもないし同情でもないし、なんだろうな少しだけ共感性羞恥のような。
もちろん不倫が美化されているわけでもない。
主人公が全員頭が良いので、ロジカルに自分の行動を分析できていて、不倫もデキる男の嗜み、くらいに思っていたはずなのに、突然「真実の愛」のようなものに目覚めてしまい、ぐるぐる論理破綻していく。
それを認められない様が一周回って可愛く見えてくる。
理性的なはずだったのに、欲望に囚われてだんだん身動きが取れなくなっていく。
とにかく読み進める手が止まらない。
人間はエゴの塊です。
でもやっぱり主人公の不倫男全員自分勝手すぎて子どもすぎてムカつく。叫び出したくなる。
*
■天気雨
これは流石に胸糞悪かった。
ストーリーとしてはちょうどいい、ハッピーエンドというかハッピーな未来を予感させる感じで終わってるけどしんどすぎるよね何これ舐めとんのか
「自分の心に真っ正直になる」ことを守り通す覚悟、それはわかる。ぜひそうしてほしい。
「どうしても恵理を失うわけには行かなかった。」それもわかる。
でもこの物語に描かれていない未来で、野島はきっと今までみたいに奥さんと恵理とどっちつかずでうだうだするんだろうなと思う。
野島の言うこともわかるよ。とてもよくわかる。
でも恵理に感情移入してしまうとしんどい。
■卵の夢
これはなんかちょっと切なかった。
所詮、一人きり平凡に生きていくだけ。
■夢の空
「私、ずっと待ってるから。ずっとずっと待ってるから」
墜落しそうな飛行機の中から、昔の不倫相手に電話をかける話。
死の間際に云々、というのはある意味身勝手だなと思ったりした。
■水の年輪
余命を宣告されて、仕事も家族も捨てて、昔好きだった人に会いに行くお話。
結局会えないのだけれど。
自分に酔いすぎな感じもしたけれど、ラストは嫌いじゃない。
しかし絵に描いたようなお金持ちホテル暮らしで笑う。白石一文あるある
■不自由な心
最後の娘婿、啓介を叱責するシーン痛々しかったな。
啓介は啓介ですごかったけど。
「どうして愛し合ってもいないのに一緒に暮らさなきゃいけないんだよ。どうしてそんな相手と子供作らなきゃいけないんだよ。」
「人間はもっと自由だよ。真から惚れた人のためなら何だって捨てられるんだよ。」