「あなたが彼をしあわせにできなかったとしたら、彼もまた、あなたをしあわせにできなかった。こういうのって、お互い様じゃないの?」
「恋愛も結婚も、ひとりじゃできないんだ。彼を責めろとは言わないけれど、自分を責めるのはやめなよ。」
「大事なひとがどんな風に生きたいか、何をしあわせに感じるかなんて考えてな
...続きを読むかった。一緒に生きていくために大切なのは『幸せな瞬間』だけではなくて、『相手のしあわせを考える時間』も大事なんだよ。」
「失敗というのは、あってもいいものなのだなと思う自分がいた。失敗したからこそ、伝えられる言葉もある。」
「その人が正しいと思ってやっていることを、私は私の感覚だけで否定したくない。誰かの意見に左右されたくない。その人と向き合って、話を聞いて、理解する努力をしたい。誰かの常識や言い訳で逃げたりしない。純也もさ、頭から否定するんじゃなくて真奈さんときちんと話をしたほうがいいよ。彼女がどれだけ仕事に対して真摯か理解できるまで話をするんだよ。」
「私か夫の痛みを『それくらい』と理解していなかったように、私も夫の大切なものをそれくらいでと切り捨ててしまったように思う。そして私は、噛み合わない夫から、逃げていた。いつか、いつかと明日に任せて、話し合うこともせず逃げ続けていた。」
「自分の中の『それくらい』を相手に押し付けちゃだめだよ。理解しないと、いつか後悔することになる。」
「わたしたちは、何かを手に入れて、何かを失う。何かを望み、手に入れられないことに絶望する。己の手の中に残ったものと失ったものを数えて、嘆いたりする。でも、大事なのは『持っていること』ではなく、『持っているもの』『持っていたもの』でもない。そこから得た喜び、得られなかった哀しみ、葛藤やもがきこそが大切なのだ。」
葬儀屋を舞台にした短編集。
『わたしが愛したかった男』
夫に自分の理想を押し付けて、そこから外れると責めて、「君はぼくを苦しめるんだ」と言われてしまう。夫も妻も間違っていない。個性だし、考え方や価値観はそれぞれ別々の人生を歩んできた中で出来たもの。ただ、相性が悪かっただけ。近い関係になればなるほど、自分の期待どおりに動いて欲しくなったり、自分の理想を押し付けてしまうし、それは同時に相手を否定することになってしまうよな、と共感した。「ひとはいつ、大事なことに気付くか分からない。」という言葉が素敵だと思った。何年も経ってから気付くこともある。過去を恨むのではなく反省できるようになる。
『あなたのための椅子』
「私は壱の一部分だけしか、見ていなかった。そして私は、たった一部分だけで、壱を諦めたのだ。」
人の一部分だけを知って、自分と合う合わないとか、どんな人かをすぐに判断してしまうところがあるけれど、人はもっと複雑で、長い時間をかけて知っていくものだと改めて気付かされた。自分も自分の全てを理解できているわけではなくて、こんな一面もあったのか、と驚くこともあるのだから、全く知らない他人と知り合い、相手のことを知っていくのは、とてもとても時間のかかること。一面だけを見て判断するのではなく、もっと相手のことを知りたいし、私の他の面も知って欲しい、じっくり向き合っていきたいと思えた。
『一握りの砂』
家族について考えさせられた。なんでも言い合える家族がいいわけではない。不仲ってわけでもなく、程よい距離感で、文句を言い合いながらもお互いを大事にする。そして時々大事な話をする。家族の関係性はさまざまで、私の家もこんな感じだな、いつもはお互いに干渉しすぎないけど、誰かが困った時や辛い時は全力で助ける。キツイ言い方をされても、その裏にはいつも私に対する心配があった。恋人との別れのところは、相手の大切なものを大切にできなければ、どれだけ好きでいても一緒にはいられないのだなと思った。それは歩み寄っても埋められない価値観の違いなのか。
町田そのこさんの本は、人と人との関わりがとても繊細に、丁寧に描かれていて、考えさせられる。とても好きな作家さんだなと改めて思った。