2024.4.19、TSMCの四半期決算が発表され過去最高の増収増益決算であった。売り上げは四分の1を占めるアップル向けスマホからエヌビデアなど生成AI向けサーバー需要(24年10%前半から28年までに20%以上に)の高単価先端品に移行中でAMD・メタなどからも広く受託生産を増やしている。最先端の2
...続きを読むnm品は25年量産を目指し開発中で台湾で2拠点、米アリゾナで3工場建設中、「先端パッケージング」も台湾で増産・・・『日経新聞』の当日の記事である。
この決算発表の日、この本を読み終えた。
『半導体有事』に続いて面白く読めた。
半導体は人類の未来を左右するキーファクターだ。
序章に書いてある、「典型的なチップは日本企業が保有するイギリス拠点の企業アームの設計図を使い、カルフォルニア州とイスラエルの技術者チームによって、アメリカ製の設計ソフトウェアを用いて設計される。完成した設計は超高純度のシリコン・ウェハーや特殊なガスを日本から購入している台湾の工場へと送られる。その設計は原子数個分の厚さしかない材料のエッチング、成膜、測定が可能な世界一精密な装置を用いてシリコンへと刻み込まれる。こうした装置を生産しているのは主に5社で1社がオランダ、1社が日本、3社がカルフォルニアの企業だ。その装置がなければ先進的な半導体を製造することは基本的に不可能だ。製造が終わると半導体はたいてい東南アジアでパッケージングとテストが行われ次に中国へと送られて携帯電話やコンピュータへと組み立てられる。」、半導体サプライチェーンのあらましである。
又、「台湾製のチップは毎年世界の新たな計算能力の37%を生み出している。2社の韓国企業は世界のメモリ・チップの44%を生産している。オランダのASMLという企業は最先端の半導体の製造に欠かせない極端紫外線リソグラフィー装置を100%製造している。それと比べるとOPECの産油量の世界シェアなどとたんに色褪せて見えてくる。」とも書いている。
世界経済における半導体産業の重要性と開発競争の凄まじさ、地政学的駆け引きと日本メーカー復活の可能性など歴史や技術的細部もさらに掘り下げる。
ATTベル研究所のウイリアム・ショックレーが真空管を凌ぐトランジスタを発明し半導体研究所をパロアルトに設立することが口火を切る。テキサスインスツルメント社(TI)のジャック・ギルビーが半導体集積回路を発明する。ショックレーのもとを離れた「8人の反逆者」がフェアチャイルドセミコンダクター社(FT)を立ち上げシリコンバレーの始祖となる。
ベンチャーキャピタルのセコイアを創業するクライナー・パーキンスもその一人である。
ロバート・ノイスがジーン・ハーニーとメサ型(台形)をプレーナー型(平板)にして複数の電子部品をまとめる集積回路を作りそれを他の電子部品と結合してシリコンチップに統合する。ゴードン・ムーアらがその集積回路をNASAのアポロ計画や軍用ミサイル開発用に技術開発を進める。フォトリソグラフィという工程で配線をプリントし集積度・性能を向上させ「ムーアの法則」といわれる集積化の指数関数的進化が始まる。FT社のアンデイ・グローブやTI社のモーリス・チャン(TSMC創業者)らが集積化を進め、購買者を宇宙開発・軍用から民間の大衆市場向けに転換する。
「金持ちになりたい」をエネルギー源としたエリート達の凄まじい競争が展開される。
大型コンピュータ時代のIBM、PCのIntelとMicrosoft、スマホのARMとAppleとTSMC、AIのNvidea等々人や企業の多彩なビッグネームが次々と登場し、スタンフォード大学やMITも人材供給や技術開発のバックグラウンドになる。シリコンバレー発のドキュメンタリーパノラマは興奮ものだ。
技術や人、国の政策や企業の戦略についての徹底した調査と研究をふまえて、正確・冷静な描写で読み手を引き込む表現は絶妙で滑らかな翻訳も手伝いノンフィクションでありながら本格的な科学冒険小説を読んでいるようだ。
急速で不可逆なデジタル社会の進展下、最も重要で本質的な心臓部品である半導体にフォーカスし、将来の社会を洞察するための価値ある一冊であった。
クリス・ミラーのこの作品を五つ星の評価とした。