兄妹ぎつねの「コン」と「キン」は、表紙のような仲良しぶりが微笑ましく、かあさんぎつねも、陰からそっと見守ることが出来る、森の中のほらあなのお家で暮らしています。
ある日、そんなコンとキンの元に泣きながらやって来たのは、小さなうさぎで、彼らが何を聞いても泣いているばかりでしたが、やがて、かあさん
...続きを読むぎつねの助けもあって、迷子になったことが分かり、コンとキンは、うさぎを抱っこしながら、無事お家を見つけてあげることが出来て、かあさんぎつねも、そんな親切な彼らを誇りに思っています。
それから、あくる日、かあさんぎつねが野いちごを摘みに出掛けた後で、コンとキンの元に泣きながらやって来たのは、今度は人間の女の子で、声をかけてみると迷子であることが分かり、「うさちゃんのお家も探してあげたから、私たちが探してあげようよ」と言うキンに対して、コンは、「『にんげんには きをつけるんだよ』って、いつも おかあさんが いっていたもの」と、心配顔です。
それで、どうしたらいいのか考えていたら、コンが人間に化けて行けばいいんだと思い付き、早速、変身するが、中途半端にきつねの名残が残ってしまい、これでは人間にバレてしまうよ、どうしよう。さて、彼らの決断はいかに・・・。
岡田千晶さんの描くきつねは、私の中で一癖ありそうな印象を抱いていたのが恥ずかしく感じる程の、生き生きとした、素直な可愛らしさがあって、かあさんぎつねの、とてもしなやかで温かさの宿る佇まいも含めて、周りの、幻想的で光も眩しい、鮮やかな緑で満たされた自然と、彼らが上手く馴染んでいると思わせる、繊細で優しい色鉛筆の描写は、最早、安定の美しさです。
そして、そんな絵の中に書かれた、村山桂子さんの文章は、幼稚園に勤務された経験や、本書の初出が、「キンダーおはなしえほん(2017年3月号)」ということもあって、コンとキンが動物たちと織り成す、爽やかな交流を描いたシンプルなお話ながらも、そこに込められたメッセージは、動物と人の、ひとつの理想のあり方だと感じ、そこで見られた、コンとキンの思いを鑑みると、人も動物に何か出来るのではないかといった、そんな素晴らしい夢も膨らむような気にさせられて、思わず、以前購入した『絵本のいま 絵本作家2021-22』の表紙の、岡田さんの平和と優しさに溢れる絵を思い出しました。