ものすごく面白かった(興味深かった)。人間が直接に間接にどんだけ生き物のDNAをいじったり影響を与えたか、そのエビデンスと考察。基本、怖く、そして非常にギルティに感じる。
2006年にグリズリーとシロクマのハイブリッド(ピズリーベア)が発見されて、ものすごい物議を醸し、その後にぼちぼちとエビデンスが
...続きを読むでてきて、今でもそこそこ話題です。アークテックエリアの流氷の上で子育てし、生きるシロクマ(ポーラーベア)だが、近年の地球温暖化で北極の氷が解け、このままでは近い未来には夏(繁殖期)に北極の氷は全てなくなると予想されている。が、シロクマが南下するには体毛などが暖かいところに適していないので、そこで、本能的に適したDNAを持つグリズリーと交配し、遺伝子をとりこんでいるんでは、というような話。逆にグリズリーのほうは温暖化で北限がさらに北上しているので、生息区域が被ってきているというのも原因の一つであろうかと思う。北極圏の交雑種は氷山の一角だと考えられていて、研究者によると、北極圏と亜北極圏のさまざまな海生哺乳類の間で、少なくとも34パターンの交雑がすでに起きていると言及されている。
そんな感じで、人間が地球に与えた影響で、野生の生物たちが生き残りをかけて、遺伝子の取り込みをおこないはじめたのでは、というような話がたくさんでてくる。そして、直接的に遺伝子を弄って新種を生み出してもいるので、そちらのほうの説明にも多く割かれている。
2004年に発表された、人懐っこい動物の選択交配がなぜ家畜化症候群の出現につながるかを説明する理論を提唱したが、神経堤とよばれる細胞の一群が鍵を握っていると考えられている。ペリャーエフのキツネの実験が紹介されていて、とてもわかりやすかった。脊椎動物の胚発生の途中で、神経堤の細胞は体のあちこちの部位に移動、そこで様々な種類の細胞や組織を形成する。耳、歯、色素産生などの他、副腎(闘争、逃走反応を司る)などとの繋がりも知られているらしい。理論の趣旨は、何世代にもわたって、従順さを選択してきた結果、神経堤になにかが起き、耳がきちんと形成されないため、垂れ耳になり、鼻面が伸びきらず、尾も伸びずに巻いた。色素産生細胞が成熟しなかったためまだら模様が生じる。副腎の発達が不十分で恐怖反応が薄れ、肉体的にも精神的にも不完全な発達の動物が誕生した。というような仮説。肉体的精神的に不完全な発達、というと子供、幼体ということで、これは愛玩動物としては有利な利点。
そういえば、この本書を読んだ直後に、ヒューマニエンスというテレビ番組で、まさにここらへんのことが紹介されていて、タイミングの良さに驚いた。
2018年にニュースになった、ニッカーズというホルスタインの話。オーロックスサイズに育って、食肉処理場の機械にフィットしなかったために、生き延びたとも言える個体。本当に凄まじく大きい。
脱絶滅のためのクローン。CRISPRの活用についてもさっくりとわかりやすく書かれている。
現在、哺乳類の25%、鳥類の14%、両生類の40%が絶滅の危機にあり、過去250年の間に失われた植物は600種にのぼる。つい今月にハシジロキツツキが絶滅と認定されたし、カタリーナパプフィッシュ、クリスマスアブラコウモリ、ブランブルケイメロミスなどもいなくなった。毎日30〜150の生物が絶滅していると言われている。もちろん、未調査だったり正式に”発見”されないままに絶滅するものもいる。
DDTや殺虫剤に耐性のある蚊や、汚染に強いトムコッド、ピザやピーナツを消化できるように進化したセントラルパークのシロアシマウス、崩れやすい斜面や砂質の崖でなく、橋や高架、路側の排水溝に築巣するようになり交通事故を防ぐように翼を短く進化させたサンショクツバメ、ビルの壁面を登れるように進化したトカゲ、
人間であることに非常に憂鬱になるが、知らねばならぬと感じる書籍であった。