"権利は尊重されなければならない"。
今日では自明視されているが、そもそも「権利」の思想とはどのような思想であろうか。そしてこの思想の根拠はどのようなものであろうか。この問いこそが、本書全体を貫く問題意識である。
一見迂遠のように見えるが、本書は先ず予備作業として、〈ライト〉の訳語に当てられ
...続きを読むた「権利」という語についての考察から始まる。〈ライト〉は「正しさ」や「正当性」を意味の中核に持つ語である。これに対し、「権利」の「権」は「力」、「利」は「利益」を意味しているが、このズレは何なのだろうか。幕末明治初期に西洋思想に邂逅し、その中で〈ライト〉の思想を導入することに与った人物たちの理解をたどっていく。
福澤諭吉の『西洋事情』では「通義」という語が当てられたが、『学問のすゝめ』では「権理」、「権義」が用いられた。遡って幕末期、西周は〈ライト〉に相当するオランダ語regtに"権"の語を当てている。これらについて、当時の国際情勢、〈力〉によって支えられている国際公法の世界に関するリアルな認識に因るものではないか、とする。また「利」については、人民の「利を保護する力」と理解されたことが、津田真道や加藤弘之の用法を通して論じられる。
このような〈ライト〉に関する日本的受容に対し、〈ライト〉の思想の本質とはどのようなものなのか。
以下、ロールズ、ドゥオーキン、セン、プラトン、アリストテレス、ヘーゲル、ニーチェを参照しつつ、どこまでもどこまでも著者の考察は、根源に迫っていく。
その結論をどのように考えるか。〈ライト〉、権利が全ての人間にとって無縁なものではない以上、それは本書全体を読んだ読み手一人ひとりが考えるべきことであろう。始めのうちこそ、著者の考察が何処に行こうとしているのか少し取っ付きにくいかもしれないが、決して難しい言葉を使っている訳ではないし、論理の展開も丁寧に行われている。自ら考えるに当たって、良き導きの書になると思う。