僕が住んでいるのは絶えず潮が注ぎ込む広大な館。無数の空間が連なって迷宮となっていて、僕は十三人の死者の骨と暮らしている。
という、まさに幻想文学らしい世界観で楽しめた!少しずつ世界の謎が明らかになっていく過程が飽きさせない。今回はサクッと読んだけど内容は分かりやすかった。もちろん謎解きのような気にな
...続きを読むる記述もあったので、ゆっくり深堀りしたら更に面白そう。
生きた人間の居ない幻想的な世界では美しさとやさしさを強く感じる一方で孤独に苛まれる。我々が住む現実世界は孤独ではないけど、数多くの他人との人間関係の煩わしさがある。
現実世界に疲れやすい人も、心のなかに自分だけの静かで美しく優しい幻想世界を持つことで前向きに生きられるし、本当に信頼できる人間とその世界を共有することで幸福にもなれる。そんなメッセージを受け取った。
訳者あとがきを読むと、著者自身が引きこもって自分の世界に浸るのが好きな一方で、重い鬱病も経験したそう。自分の幻想世界を作り上げるだけでなく、ごく僅かながら信頼できる人と共有することができれば幸福になれる、というのは筆者自身の経験なのか、そうありたかったという願いなのか。