育児、教育、医療、障碍者福祉、介護など、今の日本はどのケアの現場も強烈な人手不足。
将来的にも解消されていく見込みもない。
膨らんでいく焦りや恐れに対する何らかの処方箋はないものかと本書を読んでみる。
もちろん、ケアの「倫理」なので、今すぐにできる何かを説くものではないとはわかっているが。
ケアを
...続きを読むめぐって明らかになる、人間社会の在り方、政治の在り方を考える。
それが「ケアの倫理」ということのようだ。
ギリガンの『もう一つの声で』が、この分野の原典であり、重要な著作だとのことで、著者はこの本が書かれ、受容されていく経緯を丁寧に跡付ける。
たしかに、歴史的にはフェミニストたちが問題として立ち上げ、論じるべき問題として精緻化したことは間違いない。
が、正直に言えば、読みながら少しいらいらしてしまった。
どちらかといえば、彼女たちが切り開いた議論の現時点が早く知りたかったからだ。
だから、より興味が持てたのは5章以降だった。
ケアの倫理が目指す社会は、ケアを担う人が労働生産性が低いという理由で排除されない社会。
相互依存に積極的に価値を認める意識を広める。
ケアを担う人のケアを誰かが担う、ケアの関係が連鎖するように社会制度を設計する。
そうすることで、ケアを受ける人がケアを担う人との力関係の中で暴力にさらされる可能性は低くなる――。
ケアを性的なつながりのあるカップルを中心とした人間関係に限定する必要さえない、という、マーサ・ファインマンの議論にも目を披かれる思いがした。