「泣ける話」を書いて欲しい編集者の“柴”と、柴の子どものころからの恩人でもある作家の“凪”。どこまでも温かい凪とまっすぐな柴の取り合わせに、読んでいてこちらまで温かい気持ちになれた。
物語の終盤に徐々に明らかになっていった凪の秘密。ちょっと驚いた。
心に・記憶にいつまでも生き続けられる存在やお話、人
...続きを読むと人との関わりがあることは幸せなことだと思う。
柴の上司である編集長が、柴に語った言葉。
「…人は往々にして、居心地の良さや温かさよりも、痛みや悲しみの方を強く記憶する。幸福や愛情は辛苦の上にあってこそ輝くのであって、痛みを伴わないただの温かさは、次第に普通になり、やがて忘れ去られていく。それが、本当はとても得難く、尊いものであったとしても」(p.146)
自分の人生にも確かにあったであろう、温かさを忘れないでいたい。
また、随所に出てくる奈良の風景に、「この場所はここだな」「ここは、どこだろう」と考えて読むのが、奈良生まれ奈良育ちとしては楽しかった。