万葉集の起源を東アジアに広く広がっていた歌垣などの習俗に求める。広い視点の万葉集研究。
中国雲南の少数民族の歌文化を研究する筆者。老若男女が集まり、恋歌を掛け合う歌垣の習俗や葬送儀礼の哭き歌に、万葉集との共通点を見出す。
彼らの歌には文字はないが、心の機敏や揺れの表現は万葉和歌の抒情表現につなが
...続きを読むる東アジア共通の文化であると筆者は主張する。
万葉集で良く見られる男女の恋歌のやりとり。そして読み人知らずの歌に多い民謡的な性的にもおおらかな表現。即興と定型を交えた歌垣の文化と確かにつながるように思えてくる。歌垣を通じて口承、洗練されてきた歌が、大伴家持や柿本人麻呂、ほか万葉集の選者により、たまたま文字かされて現代に伝承されてきたのだろう。
本書は、万葉集の歌に韓国語や漢文による解釈を加える研究とは一線を画する、もっと人が歌を歌う根源に迫るものである。
もちろん万葉集自体、当時の人々が万葉仮名を発明し後世に名歌を遺した、日本人独自の功績を否定するつもりはない。ただ一つ一つの歌が出来上がる過程で多くの口承が行われ、その歌垣は東アジアの他の民族にも共通の文化であるという主張、実に壮大なテーマではないだろうか。そこに感動を覚える。
万葉集を読むと現代も昔も人の感情、心の綾には変わりはない。そのごの古今和歌集など技巧に走る前、開けっぴろげで雄大、微笑ましい誇張表現など歌垣起源であれば納得がいく。
奥の深い深い万葉集。新たな視点を与えてくれる作品でした。