山形浩生の解説が分かりやすかった。
以下、引用。
本書は経済学という分野を震撼させた、革命的な本だ。
本書は失業というものが一時的な過渡期の現象などではなく、定常的に存在し得ることを説明し、そしてそれが金利を通じてお金の市場(つまりはお金の量)に左右されることを、まとまった形でほぼ初めて示した
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それまでの経済学はこの状況に対して答えを持っていなかった。それまでの経済学は、失業は変な規制や不合理な抵抗さえなければ、だまっていてもなくなる、と述べていた。
需要と供給は市場メカニズムを通じて価格によって均衡する。失業なんてのは、価格による調整が完了するまでの一時的で些末な現象でしかない、と。
そして恐ろしいことだが、もはやケインズ『一般理論』など過去の遺物と思われつつあった 2008 年になって、サブプライム問題とリーマンショックに端を発する世界金融危機が発生し、世界的に急激な景気停滞と失業増加が見られた。そのときも、ケインズから70 年にわたり進歩と洗練をとげてきたはずの新しい経済学は、有効な診断も処方箋も出せなかった。そして危機に対してきちんと対処を行ったあらゆる国(つまり日本以外のほぼすべての国)は、この古くさいケインズの基本的な処方箋どおりの対応を(不十分ながらも)実施し、最悪の事態を回避している。
この本は
「美人投票」 2箇所に出てくる?
「アニマルスピリット」 6箇所に出てくる?
「穴を掘って埋める公共事業」 2箇所に出てくる?
といった、印象的で有名な比喩やフレーズがたくさん登場する。
一部のケインズ解説書などでは、『一般理論』の英語は格調高い美文なのでわかりにくいなどと書かれているがまったくのウソで、関係節に関係節がぶら下がり、そこにいくつもの条件節が並置されて延々と引き延ばされた典型的な古くさい悪文だ(むろん古くさいわかりにくい書きぶりこそが格調高いのだ、という価値観はあり得るが)。
純粋ケインズ左派の立場からすれば、IS-LM などというのは経済学の数理的な処理を明白に否定していたケインズの理論を、中途半端に数式化して後退させてしまったということになる。厳密すぎるからダメ、というわけだ。それどころかこのヒックス論文は、こともあろうにケインズがあれほど批判した古典派の理論を、ケインズ経済学と野合させている。おかげでサミュエルソンが、両者を統合した新古典派総合なんかをでっちあげることになったではないか、と。
IS-LM がなければケインズ理論が戦後の世界経済を席巻できたかどうか。この
モデルの異様な使いやすさは比類がない。この図を一つ描けば、ほとんどの場合には経済政策の基本的な方向性は見極められる。