以下メモ
カスタマージャーニーマップのコンセプトはシンプル。「顧客体験から逆算して、自社の課題を見つける」。
つまり、「逆算のアプローチ」で仮説や施策を考えていく。マップづくりの核となる「8ステップ」は、顧客の視点で始まり、最後に自社の視点で今の状況を見直し、顧客対応のヒントを見つける。
■ビジネスは「顧客主導の時代」に
・意思決定の主導権は顧客に移り、顧客が企業へ期待するブランド体験は急速に変化していく。
・6,700名以上の消費者とビジネスバイヤーを対象にした調査で、全体の84%の顧客が、1つの「数字」ではなく「個人」として扱われることが、商品の購入やサービスの利用にとって非常に重要だと考えている。
・つまり、顧客の過去の行動や購買履歴、製品の利用状況などのデータを踏まえることはもちろん、その人が置かれている状況を考慮したうえで企業が顧客とコミュニケーションすることを望んでいる。
・また、全体の70%の顧客が、店舗やメール、コンタクトセンターなど、接点ごとにバラバラな対応をするのではなく、それまでのやり取りを前提としたパーソナルで一貫性のある対応、企業と顧客の間の繋がりを踏まえたプロセスが、購買や成約にとって非常に重要だと答えている。
・つまり、顧客は常に「特別な個人」として扱われることを望んでいる。
・このように顧客にビジネスの主導権がある現在、顧客のパーソナルな側面に想像力を働かせて理解すること、製品やサービスを利用した先にある、顧客が喜んでくれる体験を提供するという本質に注力することの重要性が増している。顧客をビジネスの中心に捉えてシンプルに考える必要がある。
・カスタマージャーニーとは「顧客のブランド体験の旅」
■「出力」の質は「入力」で決まる
・カスタマージャーニーマップを作成する作業は「入力」と「出力」のプロセスと言える。
・「入力」とは、取り上げる商品やサービス、それらを提供する対象となる顧客像(ペルソナ)の情報、ジャーニーのスタートとゴール地点といった、マップを作成するための前提情報のインプット。この入力の質を上げないと、出力の質も上がらない。
・「出力」とは、入力された情報をもとにマップを作成することで可視化される、顧客の行動や感情、接点や打ち手のアイデアなど。
・「入力」と「出力」をしてカスタマージャーニーマップを作り、実際のお客さんの行動と答え合せしてみると、実は購買までの間にはもう1つの重要なプロセスがあることが分かったりする。社内で想定していた顧客行動とは異なる行動を消費者はどんどん起こしていく。
■ペルソナづくりの4つのプロセス
・1.対象者の情報を集める
・2.共通項を探す
・3.言語化して代表的な人物像に仕上げていく
・4.ペルソナが機能するか答え合わせをする
■カスタマージャーニーマップ作成の8ステップ
●STEP1:テーマを決める
・取り上げる商品・サービス、ジャーニーのスタートとゴール、期間を設定する。
●STEP2:ペルソナを設定する
・対象顧客像を明らかにする。
●STEP3:行動を洗い出す
・顧客がジャーニーのスタートからゴールまでの間にとる行動を明確にする。
●STEP4:行動をステージに分ける
・明確になった様々な行動を分類し、グルーピングする。
●STEP5:顧客接点を明確にする
・顧客が利用する店舗やアプリ、ウェブサイトなどの接点を洗い出す。
●STEP6:感情の起伏を想像する
・「嬉しい」「困った」「いいね」など、顧客の気持ちの変化を掴む。
●STEP7:対応策を考える
・マップ全体を俯瞰して、課題や改善可能なポイントを検討する。
●STEP8:視点を変えてアイデアを追加する
・カスタマージャーニー全体を違った角度から見直すことで、新たな施策のアイデアを見出す。
■カスタマージャーニーマップが重要な5つの理由
・カスタマージャーニーマップの作成は、顧客についてのスピーディーな仮説構築法と言える。それを可能にするのは、「2週間」「3ヶ月」のように期間を設定すること。
・①顧客が企業に期待することが変わった
・②変化への対応を、費用をかけずにすぐに実行できる
・③顧客を理解するスタンスが身につく
・④社内の共通言語が生まれる
・⑤顧客視点に立った打ち手を考案できる
■カスタマージャーニーマップワークショップに必要な3つのこと
・ワークショップの成否は事前準備で決まる
●正しい事前準備その1
・目的設定(Why=なぜやるのか)
・ゴール(目的)の設定と共有が重要。
・メンバーを強力に後押ししてくれるのが、誰もが納得する正しいゴール設定。
●正しい事前準備その2
・テーマ設定(What=何をテーマとするのか)
・ワークショップ実施の目的が定まったら、具体的にどんな顧客セグメントに対する、どんな商材を対象とするかを考える。
●正しい事前準備その3
・参加メンバー設定(Who=誰がやるのか)
・メンバー選定のポイントは、部門、年代、性別といった参加者の属性に幅を持たせること。
■事例で学ぶマップの活用
【事例1:チャコット】
●事例のポイント
・「はじめてのトゥシューズ選び」のマップ作成体験で、店舗における顧客体験の課題に気づく。
・店舗業績重視から顧客体験重視へシフトし、売上実績へと繋がる。
・顧客視点の社内への浸透は、「ワークショップありき」では考えない。
・「メルマガ改善」の実績を示すことで、顧客視点の価値を社内に浸透させていく。
●店舗に起きた変化
・ワークショップの後、新宿店の店舗では大きな変化が起き始めた。まず、店長自身が大きく変わった。それまでは業績を意識することが多く、胃が痛くなるような日々を過ごしていた。
・会社の方針に沿って一生懸命に業務をこなしていたものの、目の前にいる来店者の状態や気持ちを考える心の余裕があまりなかった。店長はまず、来店者の行動や心理状態を把握し、自分で考えたことをいかに売り場で表現していくかを考えるようになっていった。
・店長からスタッフへの声かけの内容も変化した。以前は「予算に対してこれだけ足りない」といった店舗や会社の数値目標に触れることが多かったが、ワークショップ後は客単価を重視するようになっていった。スタッフには、一対一で接客するとき、「目の前のお客様のために何ができるか」を考えて毎日やり続けよう。そうすれば自然と客単価は上がっていくはずだと語りかけた。
・この成功をもとにチャコットでは、さらにカスタマージャーニーマップのワークショップを開催したが、いつもうまくいくとは限らなかった。カスタマージャーニーマップを作成する趣旨を説明し、「顧客視点で考えてみましょう」と促しても、気がつくと「売りたい」という店舗の視点が強く出てしまうことがある。経営企画部では、テーマ設定やファシリテーションの難しさを感じていた。
・カスタマージャーニーマップを新たなアプローチを模索し始めた。例えば「メルマガの改善」をテーマにしてみた。メールのメッセージを顧客視点で考えるとどう変わっていくのか、それがどんな考え方に基づいて出来上がったのかを具体的に説明することで、顧客視点についての理解を促進する。
【事例2:バリューマネジメント】
●事例のポイント
・刈り取り型の広告集客から脱却するため、マップを作成。多様な顧客への新しいアプローチを検討。
・ウェディング会場ごとに、ペルソナとマップの精度を高めることに注力。
・実際の顧客データと答え合わせをし、マップを常にブラッシュアップ。
・マップを共有言語とすることで、部署間での共通認識が育まれた。
●答え合わせから見えてきた「仮説」と「現実」のギャップ
・ワークショップではペルソナがたどるジャーニーも一緒に考えることで、曖昧だった顧客のニーズや行動に関する仮説をよりクリアにすることができる。マップづくりを通じてコンバージョンまでの重要な中間地点を明確化できれば、コンバージョンポイントに偏った予算投下を是正することも可能になると考えた。
・ワークショップ後に、カスタマージャーニーマップにまとめた顧客行動の仮説と、実際の顧客行動を答え合わせすることで、まず見えてきたのは「検索流入に関するギャップ」である。ウェディング会場を探している人の生の声を調べると、キーワード検索ではなくて、画像検索で流入するケースが多々あることに気づいた。
・ここからマーケティング部では、サイト内の全画像を再確認してaltタグにきちんとしたテキストが埋め込まれているかをチェックし、内容をコントロールすることにした。
・また、サイトにおけるキーワードの出し方に工夫が必要だということも再確認できた。神戸でウェディング会場を探す場合、「神戸 ウェディング」「神戸 結婚式」「神戸 ブライダル」「神戸 結婚式場」など、会場の趣向によって最適解が違う。従来のワードを個別に表示する。こうした小さな改善が、成約につながると同社は考えるようになった。
・この他にも、新たにInstagramのアカウントを立ち上げたり、各会場の特徴に合わせてFacebookの投稿頻度を上げたり、広告予算の投下先を変更するといった施策を実行。その結果、顧客獲得単価が大幅に改善し、媒体ごとの貢献度も向上した。
・またウェディング事業では、SNSと相性がいい会場、結婚式場紹介カウンター経由の流入が多い会場など、施設によってサイトへの流入チャネルが異なっている。流入チャネルが多様化する中で、実状に合ったペルソナと仮説立ては重要性を増しており、こうした取り組みが予算編成を変えるきっかけにもなる。
・それぞれの事業部や店舗で実施されたワークショップの参加者たちは、担当する施設の特徴を改めて可視化し、会場が持つ強みを明確にしていった。その上でペルソナの精度を高める作業に注力して、その先に待つ顧客を呼び込んでいくことが、マーケティングの使命だと同社は考えている。
・同社は2016年から組織内のバリューチェーンの一本化を進め、マーケティング部と店舗統括部のゴールを共通化。マーケティング部のゴールが「来店数/来館数」だったのを、店舗統括部がゴールに定める「受注数(成約数)」に一本化した。共通のゴールを持つことも、部署をまたいだカスタマージャーニーの共有を実現する要因の1つとなっている。
・今後は、カスタマージャーニーマップに定量的な目標数値を設定し、媒体別の傾向も反映したいと考えている。
【事例3:ジェーシービー】
●事例のポイント
・ライフステージごとの「顧客の当たり前」の分解がはじめの一歩。
・複数の部署を巻き込んで、サービスを改善。
・理想のジャーニーを描いて顧客の期待とのギャップを洗い出し、KPIで可視化。
・発見した課題に対応するシナリオメールが成果あり。顧客体験の改善がLTVの向上に。
●顧客にとっての「当たり前」とは?
・かつてJCBの顧客接点はカードを使う店舗などが中心だったが、コールセンターや海外サポート窓口の対応も重要度が増し、今では直接の接点であるデジタルチャネルの存在感が大きくなっている。そのため以前から「顧客視点」を掲げたサービス向上に取り組んでおり、2015年には全社のデジタル戦略を担うWeb統括部を立ち上げた。
・Web統括部では各チャネルから集まる顧客の要望すべてに目を通しているが、「顧客にとって当たり前のことを当たり前に実現すること」の難しさを感じていた。
・ワークショップでは、利用の申し込みをした人が1〜2週間後にカードを受け取ってから、具体的にどういう行動を取るのか、その都度、どんな希望や要望があるのかを、まず洗い出した。そしてそれに対して、どうアプローチし、顧客からどんな反応を得ているかを挙げていき、理想のカスタマージャーニーに対して欠けている穴を埋める施策を検討した。
・スタージを分割して顧客体験の向上を目指す。顧客のライフステージを約10段階に分割し、今後は別のステージの主管部署とともに同様の改善を模索。継続的に行う施策をオペレーション部門に引き渡せるよう確立していく。こうした顧客を起点としたアプローチには、各部署の理解や協力が欠かせない。
・JCBでは今後、顧客とのコミュニケーションが複雑に分岐する現状に対応しながら、2020年への中期経営計画を見据えつつ、半年単位で全ステージのカスタマージャーニーを見直し、顧客体験の質をさらに高めたいと考えている。
【事例4:ビズリーチ】
●事例のポイント
・導入後の「苦戦期」に注目。継続利用のためのジャーニーを描く。
・感情変化を詳細にリストアップし、優先順位の高いステージを決めて打ち手を検討。
・指標にNPSを採用し、採用期の3ヶ月目、交換実感時の8ヶ月目にヘルスチェックを行う。
・セールス、カスタマーサクセス、プロダクト開発、マーケティングの4部署が、マップをもとに次のアクションへ。
●マップを表にまとめて再検討「導入後のジャーニー」に多くの発見が。
・顧客満足度を高めていかなければ継続には繋がらないという考えから「顧客が満足し、ストレスなく使ってもらうには」という観点でカスタマージャーニーマップを作成した。
・ビズリーチでは、顧客がサービスに慣れるまでの時期を「苦戦期」と呼び、多くの課題が浮上してくることから、特にこの時期のサポートを手厚くしている。
・セミナーでは「他社の事例を聞くのは面白い」という顧客の感情に対応。かつ質問をする顧客企業と何も質問しない企業では、前者の方が継続率が高い傾向があることもデータから分かっている。
【事例5:トレタ】
●事例のポイント
・組織変更をきっかけに、ワークショップを開催。組織共通の顧客理解を深めるきっかけに。
・マップを見ながら議論し、解像度が高いところと低いところがあることを認識。
・「伸びしろ」であるカスタマーサクセスに取り組むため、関連部署で再度ワークショップを開催。
・ワークショップを通じて、社内にある多様性が創造力の源泉になることを体験。
●ワークショップで浮かび上がった課題
・参加者が書き込んだ顧客に関するディテールのリアリティが薄いこと。その他にも、施策にバラつきがあったり、カスタマージャーニーマップ全体で解像度が低いところと高いところが見られた。
・しっかりディテールが描きこまれた(解像度が高い)ところは、顧客の状態をしっかり捉えているから放っておいてもうまくいく。しかし、解像度が低いところは「弱み」とも言える部分だ。中でもカスタマーサクセスの「顧客店舗をいかに繁盛させるか」の部分の解像度が非常に低いという結論に達した。
【事例6:ユーザベース】
●事例のポイント
・事業部の方針が大きくシフトするタイミングで、ワークショップを開催。
・当初は導入後の施策を重視していたが、ワークショップでは契約前のステージに改善の余地を発見。
・分業組織においても、「カスタマージャーニー」という1つの流れを意識することの重要性を認識。
・熱量の高い顧客に向き合い、その理解をカスタマーサクセスの取り組みに反映している可能性を実感。