クッツェーの小説も読んだし、インビクタスとか遠い夜明けとか映画も見ていたので、アパルトヘイトについてちょっとは知っているつもりだったけど、ちっとも知らなかったんだなと認識をあらたにした。
クッツェーは白人インテリの富裕層で、底辺の黒人がどんな生活をし、どんな思いでいたのかをリアルに体験してはいないし
...続きを読む、映画もアメリカ人が、つまり外国人が撮ったもので表面的なものでしかないということがよくわかった。
まず、黒人白人だけでなくカラード(もともと南アフリカにいたコイサン族女性と白人の間に生まれた混血を始まりとし、文化的背景がない。準白人として扱われる。カラード居住区で暮らす。)という括りもあったこと。黒人はたくさんの部族に分かれていて違う言語を話し、それぞれ別々の土地に暮らしており(当然比較的裕福な部族もあれば赤貧洗うが如しという部族もある)一つの集団ではないどころか、お互いに対立している。部族間の対立は前述の作品でも描かれてはいたが、そもそも会話すら成り立たないほどであり(言語が違うから。アフリカーンスはオランダ系白人とカラードの言語)、その対立を白人支配者たちは上手く利用していたこと。だから数々の矛盾がありながら制度として成り立っていたということ。そんな中で黒人やカラードがどんな思いで生きていたのかが、この本で本当によくわかった。
著者は見た目はカラードでありながら黒人の母の子として黒人(ネルソン・マンデラと同じコサ族)文化で育った(ヨーロッパ人の父との交流もあった)。すなわちどこの社会からもはみ出していることを子どもの頃から意識していた(何事も一歩引いて客観的に見る癖がついた)。自立心の強い母のお陰できちんと教育を受け、知能が高く言語を能力も優れていたので、英語もアフリカーンスも他の部族語もでき、何よりユーモア精神があった。これらがうまく結び付いた結果がアメリカでの成功だと思う。アパルトヘイトという悪法が産んだ奇跡。
重苦しくなって当然のエピソード満載でありながら、持ち前のユーモアセンスで笑いに変え、人種差別のバカバカしさを描き出すテクニックは最高。ヒトラーという名前の友人とユダヤ人学校に行くエピソードは面白過ぎるが、ナチスに迫害されたユダヤ人と白人に差別されている黒人の歴史を思うと、複雑な後味。
あまりに名言が多すぎて書ききれないが、「生まれてはじめてお金を手にして、すごく解放された気分になった。お金があることでまず気がついたのは、いろいろ選択できる、ということだ。人はお金持ちになりたいわけじゃない。選べるようになりたいのだ。お金があるほど選択肢も広がる。それが、お金のもたらす自由なのだ。」なんて、本当にそうだと思う。
いきなり性行為に関する法律(白人と黒人との性行為を禁止する法律、タイトルの「生まれたことが犯罪⁉」につながる)から始まる本ではあるが、高校生くらいから読んでほしい本。もちろん大人も。