家庭では暮らせない子どもたちの施設・七海学園で起きる、不可思議な事件の数々。そこで働く保育士2年目の春菜と謎解きを大きく助けてくれた児童福祉司海王。
第18回鮎川哲也賞受賞作にしてデビュー作ですが、プロ作家の別ペンネームなのでは――?そう疑われたという程の完成度。
構成から登場人物からミステリまで
...続きを読む、すべての完成度が高い。児童福祉に造詣が深くて、かといって子どもたちにも寄り過ぎず、絶妙なバランスで描かれたこの世界、本当に素晴らしかったです。
扱っている題材は重たいものです。
それが、海に近い田舎を舞台に、心地いい風を自然を感じつつ繰り広げられ、暗くなり過ぎない。思わず夢中になって読みました。暗くなり過ぎないのは、希望も同時に散りばめられていたから。
殺人事件とは違う日常ミステリ。
「いつも全部の謎が解けるとは限らない。不思議なことは不思議のまま残しておいてもいいんじゃない?」という言葉も好きでした。日常において、その感覚は大事な気がする。
ミステリであると同時に、保育士2年目の春菜の成長物語でもあります。当初は「児相なんて」と抱いていたマイナスの感情、学習より前に1番基本の『生活』を落ち着いてできる力をつける方がずっと大事だと信じて疑わなかった純粋さ、人との関わりや目の前の現実と向き合う中で少しずつ変わっていく考え。そこもまたすごくよくて。
それから天才的なまでに美しい回文。
文字遊び、というんでしょうか。上から読んでも下から読んでも同じ、という言葉作り。私はせいぜい5文字程度のものしか作れないかもしれない…こんな美しく、状況に合わせたものを作り出せるなんて、と何度感動したかわからない。
空に輝く星みたいに、一見わからなくても、名前がないように思えても、その1つ1つがきちんと輝く星。
それらが繋がり星座になる。
最後まで読み終わってまたこの作品の全体としての素晴らしさに気づかされる。余韻も残り、この本のおかげで、いい休日が過ごせました。続編があって嬉しい。読むのが楽しみ。