本書の題目に「入門」と冠されれているが、これが「正門」か「裏門」か「脇門」か分からないということは、後書にも留保されている。それだけ、「法哲学」という学問が「十人十色」の分野であり、「法哲学」なるものに「概論」があり得るのかという著者の慎重かつ謙抑的な姿勢が如実に現れているといえる。
内容に関しては
...続きを読む、著者がハンス・ケルゼン研究に重きをおく研究者であったことから、随所にケルゼンが引用されているが、他にもギリシャ思想、中国思想を始めとした古典古代の哲学思想、あるいは哲学分野にも留まらない分野からも哲学的問題を引き出しており、著者の所見の幅の広さには驚嘆させられる。そして、その内容は、「入門」と冠した題目とは裏腹に、深淵な含みのある文章が展開されており、法学、哲学、そして法哲学の基礎知識を前提にしないと平易には理解できない部分も少なくない。しかしながら、本書で法哲学的課題として取り上げられているものは卑近な例が多く、この分野を専門にしない読者でも共感を得やすいのではないだろうか。
また、本書は1980年から1982年に『法学セミナー』に連載された「法哲学講話」をまとめ、1982年に日本評論社から刊行された『法哲学入門』を文庫化したものである。
また、本書と合わせて、著者の師にあたる碧海純一氏の『法哲学概論』(弘文堂)、弟弟子にあたる井上達夫氏の『法という企て』(東京大学出版会)にもあたると、より一層「法哲学」という学問分野に対する知見が広がるのではないかと思われる。