表題の「東京裁判」とは、いうまでもなく、戦後日本の占領期において、聯合国側によって戦争犯罪者を裁いた「極東国際軍事裁判」のことで、そこで東條英機元首相らが「A級戦犯」として裁かれたことなどは一般常識の範疇であろう。しかし、わたしたちはほんとうに、この裁判について知っているといえるであろうか。この本を
...続きを読む読むと、われわれがいかにこの裁判のことについて表面的な智識しか持ち合わせていないかに気づかされ、驚かされる。たとえば、B・C級裁判にかんしては、教科書でもほんのすこししか触れられていないので、本書に登場する関聯する記述のいっさいがいちいち新鮮な驚きであった。あるいは、戦犯の釈放について。戦犯と聞けばとかく東條英機らが死刑に処された事実にばかり眼を向けてしまいがちだが、じっさいにはもっと刑が軽く、しかも途中で釈放されたような戦犯のほうがずっと多い。このことだけでもずいぶんはっとさせられるが、のみならず、国民的に戦犯の釈放を歎願する運動が起こり、国会でも同趣旨の決議がなされていた事実となると、はたしてどれほどの人間が知っているであろうか。しかも、その処遇をめぐる決定のウラには、日本や聯合国各国における権謀術数があったのである。戦争犯罪はむろん悪いことであり、それを擁護する気は毛頭ないけれども、その犯人がけっきょくは減刑され釈放されていて、しかも純粋に裁判を通した結果ではなくて、各国が妥協点を探った結果としての超法規的措置であったと聞けば、違和感を抱かずにはいられない。許されないはずの行為を犯した人間を、そんな本質からズレた方法で許してしまってよいのであろうか。そうなると、東京裁判じたいの位置づけというものもますます怪しい。ネット右翼が時折その正当性を云云することがあるのも、もちろんそれに与するつもりはないけど、ある意味では的を射ているのかもしれない。とにかく、東京裁判というものの実態について、今回は掘り下げて学ぶことができてよかった。