歴史が面白くない(と言われがち)のはなぜなのかということを切り口に、科学性、スケール(規模、範囲)、記憶との関係という3つのポイントに着目して、歴史学が科学として成立した19世紀のランケ以降の歴史学の歴史を概観。
『歴史総合』の教科書の記述を糸口にして、歴史が面白くないことの背景に、現在も主流派をな
...続きを読むすランケが確立した歴史学の実証主義、公文書至上主義、資料批判(その背景あるいは結果としての、記憶の排除、ナショナル・ヒストリー、欠如モデル)という中核的特徴があることを指摘し、その後、それを部分的に批判するアナール学派、労働史学、世界システム論、比較経済史学などの潮流が出てきたことを紹介している。そして、1970年代以降、ポスト・モダニズムの一環として、言語論的転回やポスト・コロニアリズムが歴史学に大きな影響を与えたことに触れ、20世紀末からは理論よりも実践を重視する記憶研究、グローバル・ヒストリー、パブリック・ヒストリーという潮流が登場し、ランケが確立した歴史学の中核的特徴の克服が試みられているが、それでも歴史学のパラダイムの座にあるはやはりランケ学派であると指摘している。
構成がよく練られていて、近代以降の歴史学の来し方がとてもわかりやすく整理されていると感じた。本書は一般の読者向けに書かれているのだと思うが、歴史学の初学者にとっても、史学概論の優れた入門書になっていると思う。