長銀、三洋電機、東芝の粉飾決算の事例を詳解し、トップレベルの内部統制がどうあるべきかについての著者の意見で締めくくっている。詳解と書いたが、この世界に明るくない人が読んでも理解できるように、説明がきめ細かい。ページ数も468と気合が入っている。東芝については、具体的な案件ごとに内容を紐解く。その中には、スマートメータの件も含まれており、興味深かった。
昨今コンプライアンスがうるさくなっている中で、東芝の粉飾の規模感がとても信じられなかったが、気になるのは東芝が特殊だったのか、どの会社にでも起こり得ることだったのかというところ。本書を読む限り、経営者と監査に大いに問題があったようだ。しかし、自分事として学ぶべき点も多かった。しかし、経営レベルの内部統制のポイントとして、「よい経営者を選ぶ」というのにはずっこけてしまったが。
「不況期になると不正な会計処理が増えてきます。ただし、いきなり不正な会計処理が大量に発生するということではなく、最初は、不正とも何とも判断しづらいような、いわばちょっとした会計上の工夫とか、解釈に幅があるなかでのちょっとしたアグレッシブな処理とか、そういった処理が始まるわけです。
ところが、それらのちょっとした工夫のうち、いくつかは、数年かけて『がん細胞』のように会社のあちこちに転移します。そうなってからでは、止めようとしても止められなくなります。その頃少し逆風が吹いたり、経営の失敗があったりして、二進も三進もいかなくなると、粉飾として傷口を開くことになるのです。」
「三洋電機の不適切な会計処理がなぜ起きたのか、その一部について少し述べたいと思います。…それらは大きく分けて、次の3つであるといっています。
?財務部門・経理体制の不備
?監査体制の不備
?企業風土・カンパニー制による影響
これらの調査報告書、改善報告書および改善状況報告書を読んで感じるのですが、このような原因として挙げられている事象の一つひとつは、他の会社でもありがちだということです。」
・三洋電機の判決について
「この判決を読んで重大な懸念を感じるのは、司法当局が会計というものについてあまりに理解が不十分なのではないかということです。」
・最高検察庁検事などを歴任された河井信太郎氏のことば
「一般に簿記や会計を先攻したものは、法律に暗く、逆に法律を先攻したものにとっては、簿記、会計の素養は薄いにも拘らず、企業会計における個々の会計処理は殆どすべて法律上の効果を生ずる問題である。
まことに会計の実務は簿記、会計と民、商、刑事法や証取法、税法等の交錯する谷間に発生する問題の解決にある感が深い。(中略)おもうに、資本主義経済の健全育成はその病根を発見して、これを解明することにあると確信する。
この病根の基盤をなすものは、会計上の粉飾であり、これを解明するものは、法律上の責任の追及である。」
・東芝の体質について
「…認識したロスコンを正しく損失処理することは許されず、CPにお伺いをたてなければいけなかったのです。…再三の提案にもかかわらず、北村CPはこれを承認せず、営業部等は、北村CPよりも姿勢の強硬な次のCPである五十嵐氏には提案もできなかったといわれています。」
「…現場の責任者も、事業部長も、カンパニー社長(CP)も、コーポレート社長も、さらには、財務部長も、CFOも、監査委員や監査委員長も、当事者全員が、自分の在任中は火を吹かないでくれとばかりに見て見ぬふりをし、後任者への先送りを繰り返してきたようにしかみえません。」