異なる民族や文化のことを深く理解する人類学の手法が、今日の企業の商品開発や社会問題の解決にも活かせることを、著者自身の経験や多くの実証的な事例を元に明らかにした一冊。
人類学者が異なる文化を持つ民族が暮らす実生活の場に身を置き、その文化に自ら「浸る」ことで本質を理解しようとする「エスノグラフィー」
...続きを読むという研究手法は、企業の顧客ニーズの分析や、エボラ対策といった医療現場でも成果を上げている。著者はこのような人類学者の思考法は、文化の多様性を偏見なく受容することにつながるとともに、翻って自らの特異性に気づく機会にもなり、そのためには集団において誰もが当たり前すぎて口にしないこと(社会的沈黙)に気づくことが重要であると説く。
VUCAの時代においては、データでは捉えきれない人間の本質的な部分の理解が必要があり、啓蒙主義による合理的・客観的・直線的な「鳥の目」の思考の対極にある「虫の目」としての人類学的思考の重要性が高まっている。タジキスタンでの少数民族研究から一転、金融ジャーナリストとして活躍した著者により、様々な場面で語られる多様性受容という概念が人類学という「縦糸」を通すことですっきりと整理されるとともに、読者は自らが所属する社会を相対的な存在として再認識する良い機会となる。