スペインと国境を接するフランス南西部のルルド。1858年2月に
ひとりの少女の前に聖母が現われた。何度かの邂逅ののち、聖母の
言葉に従って少女が洞窟の土を掘ると泉が湧き出した。
病気や怪我を治癒する奇跡の泉として有名な「ルルドの泉」で、
後にノーベル医学賞を受賞することになる若き日のアレク
...続きを読むシー・
カレルが目撃した奇跡を小説仕立てで書き残したのが本書だ。
カレルが巡礼団に同行してルルドを訪れたのは1902年。結核性
腹膜炎を患う若い女性は、ルルドの泉を訪れる予定の昼にはいつ
亡くなってもおかしくない状態だった。
それが泉の水を腹部にかけただけで、腹部の膨満は消え、その日の
夜にはベッドに起きがれるまでに回復した。
科学では説明のつかない事象がある。それは分かる。しかし、これは
どう考えたらいいのだろうか。死に瀕していた人が劇的な回復どころか、
全快してしまうなんて。
現在のように医学が発達していた時代ではない。診察はもっぱら医師の
目視と触診に頼っていた時代だ。結核性腹膜炎自体が誤診だったのか
とも思えるのだが、それではルルドの泉へ赴く前の女性の脈拍数や
呼吸数の説明がつかない。
原書はフランス語らしいのだが、本書は英訳からの重訳になっており、
そもそも英訳は原書の抄訳らしいので、省かれた部分に何が書かれて
いるかが気になる。
尚、ルルドにはカトリック教会の医薬局が存在しており、奇跡と認定
されるのは相当に厳しい基準が設けられているそうだ。そして、カレル
が目撃した女性の例は奇跡とは認められなかった。
それでも、不思議だと思う。少ない例とは言え、医学の知識を総動員
しても手の施しようがない病を治癒させる泉。
体験とまでは言わないまでも、出来ることなら目撃してみたい。