一部ご紹介します。
・「俺は昔、人が羨むほど出来のいいストロベリージャムパンだった。
肌の白さ、つや、ふくらみ、もちもち感、きめの細かさ・・・・・・
どれをとっても俺にかなう奴はいなかった。もちろん一番に買い手がついたよ。
俺は最高の瞬間を迎えて、天寿を全うするはずだったんだ」
「ところが
...続きを読むだ。あのくそったれ店主が!うっかり並べ直す時に落としやがったんだ!!」
「・・・・・・そいつのせいで、俺は床をスライディングする羽目になった。
俺は傷物になり・・・・・・俺が並べられるのを今か今かと待っていた客は俺ではなく、
俺の次にうまそうな奴を買っていった。俺は・・・・・・廃棄を宣告された・・・・・・」
「わかっているよ。どんなに出来が良くても泥にまみれたパンは売り物にならない。
俺たちはそういう存在だ。だけど、俺は諦めきれなかった」
「あんなささいなことでどうして全てを否定されなきゃならない!?
あんなたった一回の事故で・・・・・・どうして俺は存在意義さえ失わなければならない!?」
「俺たちはパンだ。俺たちは食われるために生まれたんだ」
「俺は必ず食われてやる・・・・・・!そう誓った俺は廃棄回収車が来るたびに、暴れまくった」
「廃棄回収車に乗ることは免れた。だが、俺を食べたいという人は現れなかった・・・・・・。
それでも俺は待った。いつか必ず、俺を食べたいと言ってくれる人が現れるって」
「待って、待って、待って・・・・・・気が付けばこんな姿になっていた」
「カビが生え、干からび、異臭を放つ。自分でも寒気がする。
わかっていたよ。もう誰も迎えになんか来ないってことくらい・・・・・・わかっていた」
「俺・・・・・・明日の廃棄回収車に乗るわ」
「ま、ここらが潮時だろ」
「そうやって俺の代わりに泣いてくれたからさ、なんかもういいかって」
「きっかけを待っていたのかもな。諦めるきっかけを」
「ま、結果的にアリスに会えたわけだし。俺の悪あがきも少しは無駄じゃなかった、よな?」