タイトル負けしておらず、
久しぶりに手放しにオススメできる本かもしれません。
日本で高齢化が著しいスピードで進んでいることは疑いないことでしょう。
といっても、それが具体的にどんな現象で、
どのように問題として顕在化するのかを、
きちんと説明できる人は多くないのではないでしょうか。
この本は、長
...続きを読むく老年医療に携わってきた著者が、
きわめて科学的な視点から高齢化という現象を考察したものです。
例えば、昔に比べて医療や福祉、公衆衛生レベルが向上した結果、
高齢者は元気になってきている(若返ってきている)現実があるのにも関わらず、
いまだ政策等で65歳以降を「高齢者」と一括りすることの妥当性の低さを指摘しています。
後期高齢者とされる75歳以上は統計学的にも生活機能の低下が著しく、区別する妥当性はあるということ、
男女間においても、加齢による身体の衰弱過程に大きな差があるということ(女性は筋骨格系の老化の進行が速い一方、男性は動脈硬化などによる血管病変が進みやすい)、
(=ゆえにたとえ粗くても高齢者を4つのクラスタには分けるべきだということ)
など。「高齢化」を一括りに論ずることは危険なようです。
また、特定健診などにより生活習慣病を予防する「病気予防」(メタボ健診が代表的)と、
お達者健診などによる「介護予防」に関して、
それぞれ有効なライフステージには時間差があるため、
財政的な面からも効率性や見切りも必要だということが論じられています。
“後期高齢者医療制度”がかつてマスコミ等からボコボコに叩かれたことは記憶に新しいかと思われますが、
著者はこの制度を高く評価していて、当時の批判が全く本質的でなかったことを本書後半で嘆いています。
この主張をするための論拠がそれまでに散りばめられていて、「なるほど」と思わせる場面もしばしば。
最後は胃瘻・経管栄養と患者のQOLの話を取り上げて、
死生観に関する教育の必要性という、非常に大きな問題にも言及しています。
都市づくり行政に今後携わっていく身として。
今後重要性の増す「在宅医療」という領域に関して、
「住宅」にも一定の役割があるということ。
また、高齢者が要介護状態になる過程において、
日常の外出や買い物、金銭管理の能力は比較的長く維持できる(なんとか独りで生活できる)一方で、
「社会との交流や関係性の低下」が閉じこもりを招くということ、
ゆえに“社会といかにかかわり続けられるか”というところに、都市づくり行政の大きな役割があるのかなと感じました。
あまりケチをつけるところがなかったのが若干悔しいですが笑、
非常に勉強になり、何度も読み返したくなる良書でした。