科学上の大発見の知らせは「人類の英知の勝利」として読んでも面白く、自分のことでもないのに、誇り高い気持ちにさせてくれる。本書は読んで心地よい気持ちを持てる快書であると思った。
本書は、「フラーレンとカーボンナノチューブ」についての発見物語である。読みやすく、理解しやすく、わくわくさせ、あきさない
...続きを読む。その発見の連続の展開はすぐれたノンフィクションと言えると思う。
本書によると「セレンディピティー(偶然の発見)」という言葉があると言う。イギリスの童話「セレンディップ王国の3人の王子」のお話である。3人の王子が航海に出た。国王である父からはある探し物を頼まれるが結局探しだすことはできなかった。しかし、父は3人の王子が航海によって立派に成長したことが何よりの宝物だと認める。王子達は目標としていたもの以上のもっと貴重な経験を手に入れることができた。転じて、自然科学では求めていた結果よりそのそばにもっと重要で大きな発見が潜んでいるというワクワクするような言葉である。なんと、ロマンを感じさせる話ではないかと思った。
ナノカーボンにおける大きな発見のほとんどすべてはセレンディピティー(偶然の発見)であるという。愉快な話である。さすがに内容は専門的でよく理解できないところもあるが、世紀の発見である「フラーレンとカーボンナノチューブ」についてのワクワク感はよく理解できた。
発見物語は以下のように続く。
①1985年 クロトーとスモーリーによる「C60発見」。
②1990年 クレッチマーとハフマンによる「フラーレン多量合成法の発見」。
③1990年 ホーキンスによる「X線構造解析によるC60のサッカーボール構造の確認」。これを読んで自然は美しいと思った。
④1991年 飯島澄男による「カーボンナノチューブの発見」。
⑤1996年 「フラーレンの発見についての クロトー、スモーリー、カールのノーベル化学賞受賞」。
本書の発見物語は、ライバルあり、運あり、タッチの差で凱歌が上がったりと、多くの感動に満ちており、どんなドラマよりもおもしろいと思った。
本書によると、カーボンナノチューブは、大型ディスプレイ用の蛍光管や電界効果型トランジスターとしての開発が進んでいるが、その性質である「アルミニウムの半分の重さ、鋼鉄の数十倍の強度」を生かした「宇宙エレベーターのロープの素材」の可能性が出てくるなど新たなジャンルを切り開いていると言う。「宇宙エレベーター」とは、宇宙を目指すのにロケットではなく、衛星軌道まで届くエレベーターを建設するというSF小説(3001年宇宙の旅、アーサー・C・クラーク)の話だが、カーボンナノチューブの発見によって、素材的には夢物語ではなくなったという。なんとロマンに満ち溢れた話であることか。本書を高く評価したい。