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黒鉛ともダイヤモンドとも違うまったく新しい構造をもった炭素の新物質、フラーレン、カーボンナノチューブ、ナノピーポッド……。「ナノカーボン」と総称されるこれらの新物質は、異分野の研究者の交流のなかで、ある日、偶然に発見された。急進展する「ナノカーボン」研究と共に歩んできた著者が、思いがけない展開と興奮に満ちた大発見の裏側をつぶさに語る。(ブルーバックス・ 2007年8月刊)
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Posted by ブクログ
科学上の大発見の知らせは「人類の英知の勝利」として読んでも面白く、自分のことでもないのに、誇り高い気持ちにさせてくれる。本書は読んで心地よい気持ちを持てる快書であると思った。 本書は、「フラーレンとカーボンナノチューブ」についての発見物語である。読みやすく、理解しやすく、わくわくさせ、あきさない...続きを読む。その発見の連続の展開はすぐれたノンフィクションと言えると思う。 本書によると「セレンディピティー(偶然の発見)」という言葉があると言う。イギリスの童話「セレンディップ王国の3人の王子」のお話である。3人の王子が航海に出た。国王である父からはある探し物を頼まれるが結局探しだすことはできなかった。しかし、父は3人の王子が航海によって立派に成長したことが何よりの宝物だと認める。王子達は目標としていたもの以上のもっと貴重な経験を手に入れることができた。転じて、自然科学では求めていた結果よりそのそばにもっと重要で大きな発見が潜んでいるというワクワクするような言葉である。なんと、ロマンを感じさせる話ではないかと思った。 ナノカーボンにおける大きな発見のほとんどすべてはセレンディピティー(偶然の発見)であるという。愉快な話である。さすがに内容は専門的でよく理解できないところもあるが、世紀の発見である「フラーレンとカーボンナノチューブ」についてのワクワク感はよく理解できた。 発見物語は以下のように続く。 ①1985年 クロトーとスモーリーによる「C60発見」。 ②1990年 クレッチマーとハフマンによる「フラーレン多量合成法の発見」。 ③1990年 ホーキンスによる「X線構造解析によるC60のサッカーボール構造の確認」。これを読んで自然は美しいと思った。 ④1991年 飯島澄男による「カーボンナノチューブの発見」。 ⑤1996年 「フラーレンの発見についての クロトー、スモーリー、カールのノーベル化学賞受賞」。 本書の発見物語は、ライバルあり、運あり、タッチの差で凱歌が上がったりと、多くの感動に満ちており、どんなドラマよりもおもしろいと思った。 本書によると、カーボンナノチューブは、大型ディスプレイ用の蛍光管や電界効果型トランジスターとしての開発が進んでいるが、その性質である「アルミニウムの半分の重さ、鋼鉄の数十倍の強度」を生かした「宇宙エレベーターのロープの素材」の可能性が出てくるなど新たなジャンルを切り開いていると言う。「宇宙エレベーター」とは、宇宙を目指すのにロケットではなく、衛星軌道まで届くエレベーターを建設するというSF小説(3001年宇宙の旅、アーサー・C・クラーク)の話だが、カーボンナノチューブの発見によって、素材的には夢物語ではなくなったという。なんとロマンに満ち溢れた話であることか。本書を高く評価したい。
ほとんど何も知らなかったナノカーボンの基礎的な知識も 得られて楽しかった。カーボンナノチューブを初めとした 研究成果の実用がどのようになされているかが解説された 本も探してみよう。
カーボンナノチューブ。初めて知ったのは、某ゲームで軌道エレベータの素材となる物質として紹介された時だった。当時はかかる費用が"試算すらできない"と言われていたが、あれから約10年。カーボンナノチューブの今を知るために本書を手にとった。 つっても初版の発行は2007年。しかも副題『...続きを読む大発見の物語』とある通り、主題はどこのだれがどのようにして発見に至ったのかの伝記であり、クラスター、フラーレン、カーボンナノチューブの科学的性質の話は薄め。よって、正しく科学を理解するにはやや心もとないが、浅すぎず深すぎない説明で、なんとなく理解できるレベルとしてはちょうどいい塩梅の裁量となっている。逆に研究の新規性を争う競争のドラマが理系らしい整然としすぎた語り口であり、物語として読むには物足りず、結局のところどっちをとっても中途半端になってしまっている気がしないでもない。 最初に手に取る本としては間違いではなかったと思うので、順次関連書籍を追って行きたい。
名古屋大学で、ナノカーボン研究を牽引している著者が、ナノカーボンの発見について、世界中の研究者がどう辿ってきたか明らかにした本。 フロリダ州立大学のクロトーと、ライス大学のスモーリーによって、1985年に質量数720のピークであるC60を発見し、この形状がリチャード・バックミンスター・フラーが1...続きを読む967年のアメリカエキスポで設計したドームと似ているこ「フラーレン」と名付けられた。 この発見は、論文ネイチャーに掲載され、1996年にノーベル化学賞の受賞論文となっている。 ところが、この発見の15年前である1970年に、京都大学工学部の大澤英二教授は、サッカーボール構造のC60の仮説を唱えていた。残念ながら、その論文は英訳されなかったため、世界に認められたのはくクロトーらが発表された以降のこととなってしまった。 その後、1990年には、ハイデルベルク大学のクレッチマー、アリゾナ大学ハフマンらにより、ヘリウムで満たした真空容器の中に、グラファイト棒(炭素元からなる鉱物を棒状にしたもの)に高電流を流し、昇華を行う抵抗加熱法により、C60の多量合成に成功したことが発表された。 この発表以降、名古屋大学の斎藤教授によるガス中蒸発法(抵抗加熱法と原理は同じ)、名城大学のアーク放電法(気体中での放電法)などによりC60の多量合成の研究が日本でも盛んに行われている。 1991年にはNEC基礎研究所に勤務していた飯島氏が、アーク放電で陰極の先端に堆積した硬い堆積物を透過型電子顕微鏡で観察することにより、チューブ状の物質であることを発見した。 これが世界に先駆け日本が発見した、カーボンナノチューブである。 カーボンナノチューブは、コンポジット補強材などの他に、半導体にも金属にもなる性質から、電池、トランジスターや蛍光管にも利用されている。 科学者達の成功や挫折を時系列で追いながら、話題のフラーレンについてわかりやすく解説した、素晴らしい本だと思います。
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ナノカーボンの科学 セレンディピティーから始まった大発見の物語
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篠原久典
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