アルコール添加された酒が、日本酒の長い歴史の中で、非常に特殊なものであることを教えてくれた。
筆者は、米と米麹以外のアルコールが含まれる酒(本醸造酒や普通酒)を全否定はしていないが、コメ不足の戦中戦後に始まった安易なアルコール添加やそれを更に補正する糖の添加(いわゆる三倍醸造)については全否定してい
...続きを読むる。これは日本酒の味のする別の飲み物といえるかもしれない。頭痛がする日本酒のイメージは此処からくるものだろう。ビールの真似をして、大量生産の安価なものを求めたことも、安易な製造技術は進展したものの、杜氏の勘にたよる醸造技術の軽視につながったという指摘も的を得ていると思う。
酒造りは腐造との戦いで、雑菌の中で生き残ったものだけが、日本酒として飲めるものになるが、昔はほとんどの蔵では頻繁に腐らせていた。それをあらゆる状況を判断しながら、雑菌よりも酒の酒母が増える条件を整えてゆくのが杜氏の役割で、逆に、そのような生存競争に勝ち残った酒母から作られた酒は、力強い味わいになるという。
そのような腐造との戦いの中で、筆者自身もアルコール添加により多くの蔵を救ってきたらしく、アルコール添加は単にアルコール度数を増やすためだけでもないようだ。そのような目的のアルコール添加は製法上の技術としての添加であり、量も微量であり、本醸造酒としてうまくできている酒も多くあると、筆者も認めている。
現在の醸造技術が、昔と徹底的に違うのは「衛生環境」と「温度管理」だろう。
昔は雑菌の多すぎる夏には酒造りをしようとしなかったし、冬も暖かい九州では日本酒は諦めて焼酎文化を発展させてきた。それが今では、一年中どこでも酒造りができるし、雑菌の管理ができるため、腐らせることなく日本酒ができるようになった。
一方で、衛生状態を保つための乳酸菌を添加(速醸造り)したり、バイオテクノロジーによる酵母が工夫されたりしているものの、ベースは昔から使われてきた酵母であり、同じ酵母でも作り手によっていくらでも工夫の余地があると筆者は主張している。また、昔ながらの自然にいる菌を利用した生酛づくりや山廃づくりで生存競争を勝ち残った酵母による酒の方が、完全発酵しているため、小手先で作られた味よりも力強くスッキリしており、長期間保管した熟酒となったときに味わい深くなるという。生でしか飲めない酒の味は脆いということかもしれない。
→酒は純米、燗ならなお良し、という筆者の名言はこのことを言っているのかもしれない。
あくまでも、好みの問題ではあるが…
基本的な酒造りの流れや、純米、吟醸などの分類方法(税金により分類されるらしい)、日本酒のラベルの見方から日本酒の飲み方、いい飲み屋や酒屋の探し方まで、臨場感をもって語ってくれている。吟醸酒の燗酒は一度試してみたいと思った。
この本は、日本酒を愛する日本酒製造技術指導者による正統派日本酒入門本にして、痛烈な日本酒業界批判本かもしれない。
特に、品評会で賞を取る華やかな香りの日本酒でなく、毎日の料理に合わせておいしく飲める日本酒でなければ、消費者は飽きてしまうし、日本酒の未来も危ういだろうという指摘は、正論だと思った。