いや、ちょっと、待って、(3)と(4)でガッツリ描かれた「人魚編」があんだけ面白かったのに、この(5)から開幕した「呪いのゲーム編」、序盤から、メッチャクチャ面白いんだが・・・・・・凄い。
改まって言うような事でもないんだけど、この『出禁のモグラ』、前作の『鬼灯の冷徹』とは違ったベクトルの面白さに攻
...続きを読むめていて、なおかつ、江口先生の成長を読み手に感じさせてくれる。
オカルトネタを絡めた面白可笑しさで、読み手を「クスッッ」と笑わせてくれる、そこは『鬼灯の冷徹』でも用いられていたテクニック。
そのテクニックは、この『出禁のモグラ』でも使われているんだけど、コメディ色はあえて抑え気味にして、シリアスっつーか、各編の、軽々しく扱っちゃいけないテーマを、読み手に「アナタたちは、どう考えますか?」と問うてくる感じに、江口先生の人間的な深味を感じさせてくれる。藤田作品のように、読み手へぶつかってきてくれる漫画が、そら、つまらん訳がない。
この「呪いのゲーム編」で、江口先生が持ち出してきたテーマ、それは何なのか、私の読解力が到らぬ事もあって、正解なのか、は判らんけど、個人的には、「一線を越えちゃった、一芸を極めたオタクの業と闇、それは許すべき罪か、それとも、絶つべき悪か」と思った・・・・・・自分でも、いざ、言語化してみて、何のこっちゃ、と首を捻ってしまうんだが、大雑把に言えば、「無邪気は悪か、悪じゃないか」だ。
ネタバレになってしまうんだが、この「呪いのゲーム」を発現させ、プレイヤーを(悪)夢の世界へと引きずり込み、連続プレイで脳を休ませず、過労死に追い込んでいるのは、他者からの批判を病的に恐れ、そんな自分を誰よりも自分で嫌ってしまい、そして、霊となった時、誰も自分を酷評せず、同時に、自分が楽しいだけの夢の世界を作る力を得た、天才ゲームクリエイター。
彼は、特定の個人を恨んでもいないし、世界そのものも憎んでいない。ただ、自分の作ったゲームを全力で遊んでくれる人たちの奮闘を見て、自分自身が楽しい思いをしたいだけ。生きた人間を片っ端から疲労で殺す事が目的ではなく、結果として、死の淵まで追い込んでしまっているだけ・・・悪意を軸にした行動じゃないだけに、却って、厄介で面倒臭くて、取扱注意案件。
現実にもいるだろう、決して、悪気はなく、ただ、自分の「やりたい事」を優先して行動を起こし、目も当てられないトラブルを起こしてしまうタイプの人間が。決して、人間のクズではないが、かと言って、人畜無害な善人からも程遠い。ハッキリ言えば、深い関りを持ちたくない、自分の側にいられたら困る存在だ。
そんな善でもなく、悪でもない、実に人間らしい感情と願望で、この天才ゲームクリエイターの霊は自分だけの世界を作り上げた。彼の作ったゲームをクリアできなければ、死ぬまでプレイ地獄。一度、クリアしている森君(ver.2)を新たな仲間に迎えたモグラたちは、このゲームをクリアし、同時に、この霊をどうにか出来るんだろうか。自分が非難されない世界が欲しい、ってのは誰もが望むものだけに、力づくで祓っちまうってのは後味が悪くなっちまいそう。
それにしても、この(5)で、最もギョッとさせられたのは、表紙も飾っている浮雲さんと真木くんが梅雨の元で会話を交わし、衝撃的な事実がサラッと明らかにされた第36話「梅雨の中にて」だった。やっぱりなぁ、と思いはしたが、ここで、しかも、ポロっと出すか、と戦慄した。何より、浮雲さんの、モグラとは異なり過ぎる、人から懸け離れている感じにゾワッとする。彼女の存在が、これから、物語をより面白くしていくんだろうな・・・ほんと、江口作品は面白いなぁ。
この台詞を引用に選んだのは、確かに、と納得できる言葉だったので。
あのトラブルに巻き込まれて、気持ちの置き所が変わって、毎日を生きる事にある程度の余裕が出来た森君が言っているのも大きいだろう、これは。
人間、持っている手札ってのは、各々で違って、人生はその手札だけで戦っていくしかない。
使える手札は使うべきタイミングで活用する、それが、人生強者になるコツかね。
「不思議なもので、この顔を人にイジられるのは嫌だったのに、自主的に活用してやろうと思ったら、わりと楽しかった。人間、現金なもんだね」(by森