カンパニー・マンとはマクノートン社に雇われる「諜報員」であるヘイズのことであろうか。最後に上司ブライトリーに「組合もへったくれもない、企業もへったくれもない」と言い放つにせよ、彼はマクノートン社の命で組合員の調査に当たっているのだから。
お目付役にサマンサを付けられ、社内の下級労働者のみを面接し
...続きを読むろと命じられながら、彼はすぐに逸脱し、労働組合の指導者ミッキー・タッツに接触する。それがきっかけとなって、事態が大きく動く。刑事ガーヴィーは窮地に立たされ、ガーヴィーを愛するサマンサは、彼を助けるためにとった行為のためにマクノートン社から解雇される。謎の突破口をつかみ出したヘイズは自分自身と彼らを救うために勝負に出る。
謎はまず組合員殺人事件の謎。この小説の冒頭で出てくる、運河で死体で見つかる組合員と、地下路面列車内での大量殺人とどう関わるのか。探偵小説としてはこれが重要なはずだが、その謎はむしろ副次的なものにすぎない。
もっと大きな謎はマクノートン社が驚くべき技術革新を成し遂げた裏にどのような秘密を隠しているのかということである。もっとも、それはだいたい見当がつくというもので、時代を超えた技術がもたらされたとすれば、その由来は宇宙からか、未来からかしかあるまい。ということで、やはり話はSFの方向に行く。
そして、もうひとつの謎はなぜヘイズが人の心の声を聞く能力を持っているのかということである。圧倒的な科学力で屹立しているが実は死にかかっている都市イヴズデン、本当に生きているとは言えない生を送っているヘイズ、この物語は両者の再生へと収束していく。
ロバート・ジャクソン・ベネットはこれまで4冊の長編を発表しており、いずれも好評らしい。ジャンルは横断的で、ファンに訊かれて、自身をファンタジー作家と答えているという。SFとしてさほど目新しいアイディアは投入されていないが、ハードボイルドで味付けして、20世紀初頭のあり得ない都市の圧倒的な描写を加えることで、類例のないような小説になっている。他の作品も読んでみたい。